海の岩場に銀色の束ねた髪が海風に揺れる。
害獣駆除をして、ヒトの魂を刈る。
それが終わると、この海に来るのが日課。
いつも通りアンダーテイカーが岩場に着くと、鮮やかなブルーのドレスを纏った少女が倒れて居た。
「大丈夫かい?」
少女は目を開く。
美しいブルーの瞳。
何か言いたそうに口をぱくぱくさせて居るが、ショックからなのか声が出せないのか?
アンダーテイカーはひとまず少女を抱きかかえて、死神界の自分の部屋へと連れ帰った。
アンダーテイカーは紙とペンを持ってくる。
「名前は?」
『私の名前はマリア』
「何処から来たんだい?」
ペンを置くマリア。
「言いたくないなら言わなくていいさ。小生はアンダーテイカー。しばらくここに居るといい」
日が暮れて、アンダーテイカーはマリアに野菜がたっぷりスープとサンドイッチを作った。
「さぁお食べ」
マリアは野菜スープとサンドイッチをしばらく見つめると恐る恐る口に入れる。
「美味しいかい?」
『とっても美味しい。ありがとう。アンダーテイカー』とマリアは紙に書いた。
夜になる。
「小生のベッドだけどいいかい?」
コクンと頷くマリア。
「ゆっくりおやすみ、マリア」
寝室から出ようとするアンダーテイカーの手を引っ張るマリア。
「一人は嫌かい?」
頷くマリア。
ベッドに横になるマリアに布団をかけてやり、腰かけるアンダーテイカー。
マリアは眠り始めた。
アンダーテイカーの黄緑色の瞳は優しくマリアを見つめていた。
「ただいま、マリア」
アンダーテイカーが帰宅すると、玄関にマリアが居た。
『おかえりなさい』
そう書かれた紙をマリアはアンダーテイカーに見せる。
マリアはアンダーテイカーの腕を引っ張る。
「どうしたんだい?マリア」
テーブルには切らずに入った野菜たっぷりのスープが置いてあった。
『食べて』
紙を差し出す。
「いただくよ」
「うん…意外と味は悪くないねぇ…」
にっこりするマリア。
マリアの手を取るアンダーテイカー。
「こんなに怪我して」
傷だらけのマリアの指を消毒をし、絆創膏を貼るアンダーテイカー。
「小生は明日休みなんだ。どこか遊びに行こう?マリア」
笑って頷くマリア。
次の日。
死神界と人間界の街へ出掛けた。
マリアが選んだキャンディやらチョコレートやら可愛らしいウサギのぬいぐるみをアンダーテイカーは買った。
『ありがとう、アンダーテイカー』
紙に書いて口を動かすマリア。
その日の夜、マリアはウサギのぬいぐるみを抱きしめてすやすやと眠った。
愛おしげにマリアを見つめるアンダーテイカー。
そしてアンダーテイカーもベッドに入り、マリアを抱きしめるように眠りについた。
マリアがアンダーテイカーの元へやって来てから一週間。
仕事が早く終わったので、マリアが喜びそうなチョコレートやキャンディをたくさん買って、アンダーテイカーは帰宅した。
いつも出迎えてくれるはずのマリアが居ない。
「マリア…?」
テーブルの上には一枚の紙が置いてあった。
『今までありがとう』
そう書いてあった。
紙を握りしめて、アンダーテイカーは部屋を飛び出し、一目散にマリアと出会った海へ向かった。
アンダーテイカーの予想通り海の岩場にマリアが立って居た。
「マリア!」
アンダーテイカーはマリアの元へ駆け寄る。
マリアは涙を流していた。
アンダーテイカーはマリアを抱きしめようとしたが、マリアは岩場から海へ飛び込んだ。
すると、マリアは人魚姫の姿になった。
「アンダーテイカー…こんな姿見られたくなかった…嫌われちゃう…私、ずっと貴方の事が好きだったの。毎日海を眺めて居る貴方を見ていて…でも人魚じゃ気持ち悪いでしょう?…だから…一週間だけ人間の姿にしてもらったの。その代わり声が出なくなってしまったのだけど…」
人魚姫の姿になり、声が戻ったマリアはアンダーテイカーに言った。
アンダーテイカーも海に飛び込む。
「マリア!」
アンダーテイカーは海の中でマリアを抱き寄せた。
「今までありがとう。貴方と過ごせて、とても楽しかった。ずっとずっと、愛してるわ。アンダーテイカー…」
そう言うとマリアはアンダーテイカーにキスをした。
サヨナラ…
すると、マリアは泡になって消えて行った。
アンダーテイカーはその光景を、ただぼう然と見ている事しかできなかった。
そしてそこにはパールのピアスが2つ浮かんできた。
マリアがいつもつけていたパールのピアスだ。
あれから、何日か過ぎた。
あの日からもずっとアンダーテイカーは岩場から海を眺めていた。
「小生には似合わないかな」
アンダーテイカーの耳元にはパールのピアスが輝く。
アンダーテイカーが海に来るのが日課だったのには理由があった。
海の上を跳ねたり、楽しそうに泳いだり、イルカやシャチと戯れる美しい人魚姫にアンダーテイカーは恋をしていた。
毎日人魚姫を遠くから見つめて居たのだ。
「小生は、人魚姫のマリアも人間の姿のマリアも愛しているよ」
愛しのマリアへ、永遠に届かない告白をした。
銀色の束ねた髪を海風に揺らしながら。