さわやかな朝。
あくびをしながら立ち上がり軽くストレッチをするマリア。
するとマリアの部屋をドアをノックする音。
「どうぞ」
「おはようございますマリア様」
笑顔のセバスチャン。
セバスチャンがアーリーモーニングティーを持ってやって来た。
紅茶をカップに注ぐセバスチャンをじっと見つめるマリア。
「何か?」
「いえ」
笑顔を絶やさず、美しい所作…
完璧すぎて怪しい。
マリアはセバスチャンを見つめながらそう思った。
そんな風に考えながら、1日が始まった。
朝食をとるシエルとマリア。
「そういえばシエルはウェストン校に居たんですって?」
突然マリアは言い出した。
紅茶を吹き出すシエル。
「お行儀悪いわよ、シエル」
マリアはハンカチでシエルの口を拭いた。
「姉さん、何故それを」
「あ〜ら、お姉様は何でも知ってるわよ。あと今日はちょっと帰りが遅くなるから。じゃあね。ごちそうさま」
パンケーキやフルーツを完食し、屋敷を出て行くマリア。
夕方。
怪しげな店の中へ入るマリア。
「いやぁ、いらっしゃい。お嬢ちゃん」
銀髪の長い髪、黒いコートを身にまとった葬儀屋、アンダーテイカー。
「元気だった?アンダーテイカー」
「小生は元気さ。お嬢ちゃんは大学はどうだい?」
アンダーテイカーはビーカーと骨型クッキーをマリアに準備する。
「慣れたわ。毎日大変だけど」
アンダーテイカーとマリアは人体模型を見ながら解剖の話をする。
「アンダーテイカー、入るぞ」
そこにシエルとセバスチャンがやってきた。
「姉さん!どうしてここに?」
驚くシエル。
「ここは私の遊び場よ」
幼い頃の記憶。
マリアは好奇心から屋敷を抜け出し、繁華街を歩いて居たが迷子になってしまった。
「おうちかえれない…ううっ…ひっく…」
不安から泣き出すマリア。
すると美しい黒い爪に大きく綺麗な手がマリアに向けて手招きしている。
「おいで、お嬢ちゃん」
怪しげな店に足を踏み入れるマリア。
「迷子になったのかい?ファントムハイヴ家のお嬢ちゃん」
「おじさま、だぁれ?」
「おじさまねぇ…まぁそこにお座り」
マリアは棺の上にちょこんと座る。
アンダーテイカーはビーカーに紅茶を注ぎ、骨型クッキーを出す。
「おじさまはおとうさまのことしってるの?」
「ああ。知ってるさ。お嬢ちゃんのおばあ様の事もね」
「ふぅん」
クッキーをかじるマリア。
「お嬢ちゃん、今回は小生だったからいいけど、知らない人に簡単に付いていったらいけないよ」
「どうして?」
「危ないからねぇ。約束できるかい?」
「うん!やくそくするからわたしのおねがいきいてくれる?」
「何だい?」
「わたしのおともだちになって!わたし、じいやとしかあそんだことないの」
「いいよ。小生とお嬢ちゃんは今日からおともだちさ…ヒッヒッヒッ…」
それから、マリアは屋敷を抜け出し、アンダーテイカーの元へ通うようになった。
「おじさま、わたし、ミロワールがくえんにかようことになったの」
「ミロワール学園…凄いねぇ。頑張ったねぇ…でも、小生にはもう会えなくなるね」
「おじ様!」
「お嬢ちゃん、学校は?」
「抜け出して来たわ」
「いいのかい?」
「余裕。毎日毎日同じ事の繰り返しでつまんないしね」
学園を抜け出し、アンダーテイカーに会いに来るマリア。
「お嬢ちゃん…随分と派手になったねぇ」
「私、アンおば様みたいな赤毛にずっと憧れてたのよ!」
母親譲りの亜麻色の髪を真っ赤に染め、赤いアイシャドウ、赤い口紅。着くずした制服に厚底の靴。
成長するマリア。
「クラージュ医科大学に合格したんだってぇ…おめでとう」
「アンダーテイカーが勉強教えてくれたからね」
幼い頃から現在まで、アンダーテイカーとマリアはずっと一緒だ。
大事な大事な友達。
「まさか姉さんとアンダーテイカーが知り合いだったとはな」
呆れるシエル。
「ヒッヒッヒッ…小さい頃からずっとお嬢ちゃんを見てきたからなんだか最近は自分の娘みたいに思えて来たよ…」
「姉さんが昔からよく言っていた『友達』ってアンダーテイカーだったのか」
「そうよ」
紅茶を飲むマリア。
姉さんは昔からドクロや悪魔やら死神が描かれた不気味な絵本を読んだりしていたのはアンダーテイカーの影響か…
シエルはそう思った。