「さぁ、力を解放するのだ!『愚かなレプリカルーク』!」
まるで宣誓であるかのように高らかに言う男。
その前で佇む赤い髪の青年は、ただ表情一つ変えずに、ぴくりとも動きはしなかった。
「最低ね…反省の色も無しでだんまりを決め込むなんて。少しは良い所もあると思ったのに」
そんなこと、一度だって思ったこともない癖に。
『ルーク』は見下す視線を受けて、何も言い返さずに頭のだけで呟いていた。
だいたい反省の色も何も、表情のことを言っているのだとしたらお前の方が最低だ。俺は昔から、精神的ショックのせいで記憶を失ったと共に表情も失ったと医師に診断されていると知っているはずなのに。
出来ないことを求めて、どうしようと言うんだろうか。
そしてだんまりはこちらの意思ではなく、お前達が勝手に話を進めたからだ。一体今の何処に、俺が口を挟む暇があったと言うのだろうか。
そんな勝手な人間たちは、やはり勝手なことを言いたい放題に吐き捨てて、さっさと先へと行った。
「お前は俺のレプリカなんだよ!」
苛立たしげに、しかし悠然と言ってのけるルーク。
だから何だと言いたかった。
しかしこいつのレプリカを見下してるような上からの物言いは、ヴァンとそっくりだな。
「は、この期に及んでもまだ無表情かよ。劣化レプリカとは言え、こんな奴等に殺されたアクゼリュスの奴等は哀れだな」
なら俺は、仕えるべき次の王だったはずの奴に殺されたカイツールの奴等を哀れに思う。こんな我儘なガキの癇癪のとばっちりで殺されたなんて。それも本人は無自覚。死んだ奴も浮かばれないに決まっている。
「何とか言ったらどうなんだ、この屑が!」
そして悪し様に罵られる光景を傍観して、止めもしないティア。
その表情は、自分もルークと同意見だと物語っていた。
「…はっ、まるで人形だな。そのままここで朽ちるまでそうしていろ!」
最後にはそう言い捨てて、ルークはさっさと行ってしまい、ティアもその後に続いた。
「人形、か…。ははっ。あはは!」
一人ユリアシティの入り口で佇む『ルーク』は無表情のまま、しかし堪え切れなくなって声を上げて笑った。
「みゅみゅ…。どうして楽しそうなのですか、ご主人様?」
押し込んだ懐で蹲り、醜悪と化した人間から身を隠していたミュウが這い出てきて尋ねた。
「ああ、愉しいよ。実に愉しい。お前は面白くないのか、ミュウ?」
「みゅう!すっごく怒ってるですの!なのに、何でご主人様は愉しいんですの?」
「それはな、負けるからだよ。アイツは馬鹿にした人形に、負けると決まっているからさ」
言い終えた『ルーク』の口端は、僅かに上がっている気がした。
それを確認できたのは、彼の腕に居るチーグルの子どもだけだった。
「せいぜい幻の『陽だまり』を楽しむんだな、ルーク」
だが、最後には気づかせてやるよ。
お前の居場所なんて、最初から無かったことをな。