発覚

 誰も一言も喋らなかった。
 タルタロス内は重い沈黙に包まれている。



  発覚



 アクゼリュスがヴァンの手によって崩落し、自分達だけはなんとか生き延びる事が出来た。しかし、壊れたのはそれだけではなかった。

 「ルーク、お前それは一体何だ」

 ガイ詰問する。自分の感情があまりに高ぶっている為、声が震えていた。

 自分はずっとルークの傍にいた。彼に関することは何でも知っている。知らぬ事はない。それが誇りでもあった。
 しかし、自分の前にいる青年は誰だ。

 これは自分の知っている“ルーク”ではない!

 ルークは黙ったままだ。
 「何とか言えよ!!」
 ガイがルークの胸倉を掴む。ルークはガイを見ようとしない。言葉すら発しようとしない。
 「それがお前の答えか」
 ガイがルークから手を放した。
 「・・・お前には失望したよ」
 しかし、ルークはそのガイの言葉を聞かないまま、ブリッジを出た。


 「・・・お前がこのことを知ったら、俺はお前を殺さないといけない」
 それが掟。
 「それに、お前も俺に隠しているじゃないか。ガイラルディア」

 ルークは紫色をした魔界の空を仰いだ。


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 ユリアシティに到着した。

 とにかくこれからの事を含め、ここの代表の話を聞いたほうがいい。幸い此処の市長がティアの祖父だという。全員がタルタロスから降りた。皆、町に向かって歩いていく。最後に降りたルークは足を止めた。
 翡翠色をした目が細められる。

 (来る!)

 何の躊躇いも無く横に飛ぶ。耳を劈くような爆音が周り一帯に響き渡った。さっきまで自分のいた場所に穴が開いている。攻撃は休む間もなく続けられている。ルークはジグザグに動き、それを避ける。もちろん、敵がいるだろう場所に武器を投げながら。
 まだ、敵の姿は確認できないが、ルークには誰が攻撃を仕掛けているのか判っていた。

 (糸は無理か。前回使ったしな。さて、どうしようか)

 威力が大きい分、どうしたって譜術は詠唱に時間がかかる。そして、ルークの方が速い。それを補う為に譜術だけでなく、火薬も使っているようだ。それ特有の匂いがする。煙幕の役目もあるのだろう、周り一帯煙が立ちこめ、視界が利かない。

 (この間の仕返しだな)
 だが、この程度の小ワザに付き合うほど自分は親切ではない。

 ルークは敵の懐に飛び込んだ。

 カン!

 金属音が響く。
 ルークの渾身の剣をジェイドの槍が受け止めたのだ。だがルークの方が強かったようだ。ジェイドは受け止めるのが精一杯で、その瞬間顔が歪んだのを見逃さなかった。しばらくは腕が痺れて使い物にならないだろう。それと、この煙がルークに通用しなかったことに、多少なりとも衝撃を受けているようだった。

 チャンスだった。しかし、ルークは攻撃をせず素早い動きで、ジェイドから離れる。

 「エクスプロード!!」

 目の前で凄まじい炎が炸裂する。周りに立ち込めていた煙は一掃された。

 「何をやってやがる、お前ら!!」

 鮮血のアッシュ、オリジナルルーク。
 知っているようで、何も知らないファブレ公爵の息子。

 その声に我に帰ったナタリア達が駆け寄ってくる。

 「ジェイド、ルーク!!一体これはどういうことですの!!」

 いきなり、ジェイドがルークに向かって攻撃を始めるのだから、さぞ彼女達は驚いたことだろう。一応仲間であるのだから。
 やはり衝撃は大きかったらしく、そういうナタリアの顔は青ざめていたし、ティアやアニスはその場から動けないでいる。ガイはルークが視線を向けると、ふいと顔を逸らした。

 「ただの悪ふざけ、ですよ」

 あまりにも殺伐すぎるその雰囲気に、周りの人間が言葉を失くす。ジェイドは無表情のままだ。もし、ここに他の仲間がいなかったなら、邪魔をしたアッシュを殺していたのではないだろうか。そんな気さえする。実際、壮絶な殺気を込めてアッシュを睨んでいた。
 しかし、当のアッシュはルークに視線を向けており、ジェイドのことは完全に無視をしていた。

 「お前、まさかとは思うが・・・自分がレプリカだということを知っていたのか」

 抜刀の体勢のまま、アッシュが尋ねた。その声に余裕などない。
 ルークとの間合いは十分に取ってある。しかし、この程度の距離など彼にしてみればものともしないだろう。アッシュは、自分の背中に冷たい汗が流れるのが分かった。

 認めたくはないが、彼の戦闘能力は自分と同・・・、いや、それ以上だ。

 (流石六神将、鮮血のアッシュ)
 武人としての見る目はあるらしい。

 ルークは剣から手を離し、戦闘態勢を解いた。



 「知っていますよ。あなたが俺のオリジナルであることも、すべて」




 ジェイド以外の仲間達が、その発言に息を呑んだ。







 あとがき
 久々の更新でございます。