謫居
Wayback Machine
NOV DEC MAR
Previous capture 17 Next capture
2005 2006 2008
12 captures
17 Dec 2006 - 7 Dec 2008
About this capture
その他の部屋
「知っていた、だと?」
アッシュはそれを云うだけで精一杯だった。
謫居(たっきょ)
目の前にいるのは自分のレプリカだ。
ヴァンと会話する度に「あれはただの道具にすぎない」「余りの愚かさに反吐が出る。やはり劣化レプリカだな」と散々罵られ、侮蔑の対象に過ぎなかったモノであるはずなのに。ヤツに呑み込まされそうになるのは何故だ。
「ここでじっとしていても周りの迷惑になるだけです。早く町に入りましょう」
導師イオンがそう声を掛けてきた。
あれだけの音を響かせ、派手に動き回った―というより殺し合いをした―自分達だ。驚いた住民達が集まって、恐る恐るこちらを伺っている。
「チッ」
アッシュは舌打ちをし、その身を翻し町に向かう。
「この町の責任者に会う。レプリカ、お前にはまだ聞きたいことがある。・・・逃げるんじゃねえぞ」
「・・・・・・」
ルークは無言だった。それがまた、腹立たしい。
「行きますよ、皆さん」
先ほどとは違い微笑みさえ浮かべながら、死霊使いが明るく云う。しかし、ルークに向ける視線は全く変わらず、殺気が篭ったままだ。
全員無言で彼に続いた。
ユリアシティの市長との会見が始まった。
アクゼリュスの崩落は、預言に詠まれていたと知ったナタリア達は、ショックを隠せないようだった。
これは高度な政治問題だ。とてもルークに口出しが出来るものではない。
特に、生きる世界が違う自分にとっては。
(任務は失敗した。この責任は取らねばならない)
ルークは彼らと離れた場所、入り口付近立っていた。とはいえしっかり監視はされてはいたが。
「どうぞ」
テオドーロ市長―ティアの祖父―の部下らしい女性がアイスティーを勧めてきた。勧められるままルークはそれを受け取り、彼女を見た。
『任務変更』
唇の動きはそう読めた。
彼女はジェイド達に背を向けており、口の動きなど完全に見えない。
「・・・もう少し、お茶の葉を少なくした方がいい」
「あら、やっぱりそうですか?私、濃いのが好きで、ついお茶の葉多めにしちゃうんですよね」
その場には、全く似つかわしくない明るい声だった。
「次はもっと少なくします」
「そうしてくれ」
失礼します。
そう言うと、彼女は去っていった。
ルークは飲み物に入っていた氷を口に放り込んだ。
「とにかく、地上に戻りませんことには始まりませんわ」
テオドーロとの話しを終えた、ナタリアが言った。
「そうですね。私もこのことを陛下に報告しなければ。それと・・・」
ジェイドがルークに視線を向ける。
「あなたはどうするのです?」
その声にはすべてを凍てつかせる力が篭っていた。
「とりあえず、公爵に連絡を取る。それからだ」
ルークは動じることなく答えた。
「父上に連絡を取った後は、どうするんだ」
アッシュが何時でも抜刀出来る体勢をしながら訊ねてくる。そんな事をしても無駄だとは思うが、口にはしない。
「未定です。公爵次第ですね」
アッシュは、今まで自分の中で燻っていた疑問を投げかけた。
「お前、自分がレプリカだと知っていたと言ったな。このことは父上も・・・ご存知だったのか?」
ルークがレプリカだと、偽物だと、いや、ヴァンが今まで自分に行ってきたことを知っていたのだろうか。
まさか、すべて分かっていて、黙認・・・していたのか?
それはつまり、自分―ルーク―は父上に見捨てられたのと同じなのではないのだろうか。
「・・・公爵はすべてをご存知です」
アッシュの顔色が変わる。
「ルーク!!」
ナタリアが叫ぶ。
「その発言はあんまりですわ!!あなたには思いやり、というものがありませんの!?」
他の女性陣も非難の目で自分を見つめていた。
この場合、責めるべきは公爵であり、ルークではないだろうに。
配慮が足りなかったことは認めるが、この程度のことで立ち直れなくなるようなら、ファブレ家の跡継ぎはとても務まらない。
「何故、公爵がこのような手段を採られたかはいずれ解ります。アッシュ、いえルーク様、これはあなたの為なのですよ」
ファブレ家の“闇”からの脱却の為に。
「公爵のご子息はあなただけです。ルーク様」
「・・・その名前は捨てた」
「あなたがいくら抵抗しようと、“ルーク”であることを周りはあなたしか認めません。私は偽物なのですから」
ましてや私は、ヴァンが言った劣化レプリカなのです。人がそう簡単に認めるはずはないでしょう。
そういわれ、全員が詰まる。反論出来ない。
オリジナルルーク。ローレライ教団、神託の盾特務師団長、六神将鮮血のアッシュ。
特務師団に所属しているのだから、かなり隠密性の高い任務が多いと予想される。又、公には出来ない経験もしているのかもしれない。でも、アッシュのいる特務師団はローレライ教団という、この世界すべてのものから認められ、尊敬される存在に属している。彼の行動は任務であり、正当なものだ。
それならいくら血で汚れても、洗えば落ちる。
アッシュは綺麗なままだ。自分と違って。
自分の浴びた血は、どんなに洗っても落ちる事は無い。この鉄のような匂いは、どんなに高級な香水を使っても消えはしない。
公爵が我が子として愛しているのは、このオリジナルルークだけ。
彼を代々続く、この忌まわしい枷から解放する為に、自分は存在する。
「やはり、お前は劣化レプリカだな。てめえの立場を解っていやがらねえ」
そのアッシュの言葉を聞いたルークは目を伏せる。
「・・・理解しろと言ってもすぐには無理でしょう。でもこれだけは忘れないで下さい。公爵が、息子として愛しているのはあなただけ、です」
自分、ではない。
「とりあえず、色々あって流石の俺も疲れている。少し休ませてもらえないか」
疲労を隠さず、ルークは皆に言った。
あとがき
謫居(たっきょ)罪を犯した罰として遠方に流されてその地に住むこと。
新明解国語辞典より