倒れる事など誰が許すものか

彼女はいつも隣にいた。
忍者を目指す中でくの一と忍たまで別れるが、それでも合同実習の時は絶対に隣にいた。

「仙蔵。いい作戦を思いついたんだ〜」
「お前のいいはこの場合面白いだろう。なんだ?」
「えへ。さすが仙蔵。あのね、次にここを文次郎が通ったら__」
「フッ。いいな」
「よし!ならさっさと仕掛け作っちゃおう!」

女であるがために純粋な力では勝てない。だからこそ技術を、速さを。己の武器を最大限までに使い、いつだってお前は私の隣に立ち続けていた。
卒業したら離れるが、それでも交流が続けばいいな、なんて話した時もあった。



それが、どうしてこんなことに。



「ハァ……ハァ」
「せ、んぞ……」
「喋るな!」

雨に降られながら背中に傷だらけの理央を背負ってがむしゃらに走る。追手の気配はない。後は学園に早くつくことだけを考えて。痛みを訴える傷を無視してただ足を動かし続ける。

「も、だめだよ……わた、し…おいて「馬鹿を言うな!」せん、ぞう」

不覚だった。任務で忍び込んだ城に事前で調べた時にはいなかった手練がいた。そのせいで任務自体は成功だが理央が深手を負ってしまったのだ。

背負っている背中に、彼女から流れる血が伝う感触がありありと伝わる。
とにかく学園につけば新野先生もいる。伊作もいる。理央は助かる。そのはずだ。

なのに、だんだんと冷たくなっていく感触が。重みを増す体が。彼女がもう長くないことを雄弁に語る。このままでは一度撒いた追ってに追いつかれる危険性だってある。理央自身も、このままでは私の足でまといになることを十分に理解している。その選択が賢いことなんて頭では私だって理解しているんだ。だけど。

「そんなこと、…認められるはずがないだろう!」
「せ、んぞ……う」
「一緒に卒業すると誓っただろ!離れたって、また会う日まで生き続けると誓ったではないか!こんな、こんなところで……!」

あと少し、あと少しで学園だ。もう既に裏山に入っている。あと少し。

「せん、ぞ……あ、りが、とぉ」

その時、一気に背中に重みが加わり、微かに当たっていた吐息もなくなった。

「理央………?おい、理央!返事をしろ!」

いくら怒鳴っても返事はない。


嗚呼どうしてなんだ。
どうしてお前なんだ。

約束したはずだ。なのに、どうしてこんなところで倒れてしまうのだ。



倒れる事など誰が許すものか


背中にある事実から目を逸らし、学園の門をくぐった。

頬を濡らす水は、雨か。それとも涙か。

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