結局は俺次第
俺はどこにでもいる普通の一般人だった。
ただちょっと運が良くて、ちょっと運動ができるだけの、それ以外は本当に普通のどこにでもいる一般人だった。

それが変わったのはつい先日のこと。
その日は何も変わらないただの日常のはずだった。少なくとも、朝起きて仕事に行って、やっと終わって家に帰って飯食ってベッドに倒れ落ちた所まではいつも通りだった。
けれど起きたらそこは別の世界。
何を言っているのか分からないと思うが、俺にだって訳が分からない。今この瞬間だって混乱中だ。

起きて何だかおかしいなと思いながらテレビをつけると、まさかの工藤優作が出てきた。そこで呆然となったのは仕方が無い。なぜならその人物はあの真実はいつも一つ!でお馴染みの幼児化しちゃった名探偵の世界にいるはずの人物だ。間違ってもこんなテレビに出て普通に会話しているなんて有り得ない。
うん、とにかくひとまずは朝飯を食おう。幸いなことに今日は休みだ。少し落ち着いて、それからいろいろ考えよう。
そう考えて顔を洗おうと洗面所に行って。

「___なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?!?」

そこにいたのは俺じゃなかった。いや俺であることに変わりはないが、昨日までの俺とは違った。ようするに今目の前の鏡に写っているのはおよそ高校生くらいの俺。え、どういうこと?俺昨日までは三十路に近づいてきた社会人だったよ?なんで高校生まで退化してんの。

***

あれから数週間。いろいろあった。え、飛ばしすぎだって?仕方ねぇだろ。いろいろあったもんは色々あったんだよ。
詳しく言うとやっぱりここは名探偵コナンの世界で、なんと俺は帝丹高校二年生に編入した。
いや全く自体が分かっていないんだが、家の中を漁ったら帝丹の制服と教科書。そして編入手続きの書類があった。で、その翌日が初日だったから慌てた場所調べて今に至るという訳だ。意味がわからない?安心しろ。俺も分からん。
どうやら原作は既に始まっているらしく工藤新一はいなかった。

名探偵コナンは好きな漫画だったからそれなりに知っている。だけど現実で関わりたいかって聞かれたら答えはNOだ。名探偵コナンはレギュラーの死亡こそないが、モブで人がバンバン死ぬ。しかもレギュラーでも怪我をメチャクチャする。そうでなくとも事件が法治国家?何それ?レベルで起こる。その中心に誰が好き好んで関わろうと思う。
俺はことなかれ主義なんだ。一番大事なのは自分。それの何が悪い。




眼鏡をかけた少年を見かけたが何も反応はしない。
細目の優男を見かけたが何も反応しない。
イケメンで料理の上手い喫茶店の噂を聞いたが行かない。
事件が起こり眠りの小五郎がいるらしいが見に行かない。
爆弾騒ぎがあっても関わらない。



見ない。聞かない。言わない。ここは漫画の世界だ。俺がいなくても上手く事は収まる。むしろ俺という異物が入ることによって、決められていた未来が変わり死なない人間が死んでしまうかもしれない。
だからこそ、俺は何もしない。何も関わらない。


___そう、決めたはずなんだけどなぁ?


***

今俺は、美女と一緒にいる。銀髪で左右の目の色が違う美女だ。
この特徴を聞けば分かるだろう。そう、あのいろんな組織が追っている黒の組織No.2の腹心。キュラソーだ。

嗚呼何故こうなったのか。

そもそもの間違いは友達に水族館のチケットを押し付けられたことだ。勿論原作とは関係の無いモブ。そいつが彼女と行くはずだったが、その直前で破局。余ったチケットを俺に押し付けたわけだ。
面倒だが、水族館は嫌いじゃないしリニューアルオープンしたばかり。折角なので行ってみるか。

その途中のことだ。フラフラとしている美女を見つけた。知らない他人など放っておけばいいのだろうが、本当にフラフラとしていて危なっかしかったので、つい声をかけてしまった。

「おい、あんた大丈夫か?」
「………私?」

振り向いた彼女の顔を見た瞬間。一気に記憶が駆け巡った。

____こいつ、キュラソーじゃねぇか。

凝視する俺を不思議そうにキュラソーは見るが、固まってしまったのは仕方が無い。今まで徹底的に避けていたキャラクターしかもよりにもよって黒の組織No.2の腹心。死亡フラグしかないじゃないか。
けれどよく見てみると服が汚れているし傷もある。ぼんやりとしている表情からすでに映画は始まっているのだろう。確か最初は水族館だか遊園地だかの前にあるベンチにいたから、その前ってことか。

どうする。いや放っておくべきだろ。確かこの映画はオスプレイが飛んで弾丸の嵐で最終的には観覧車が崩れるんだろ?やばい。このまま関わったら確実に巻き込まれる。

「………」
「?あの………?」

最終的には、この人《キュラソー》も死ぬんだよな。
子供たちを守るために観覧車を止めて、そんで潰されて死ぬ。折角白に戻れたのに、死んじまうんだ。

「………ああ糞」

だから関わりたくなかったんだ。
自分の平穏の為でもあるが、何よりも一度関わってしまったらこいつらが漫画のキャラクターじゃなく、生きている人間だって事を理解してしまう。

そして、死ぬと分かっている人をそのまま見殺しにするほど人でなしではないつもりだ。

「もう、腹をくくるかぁ……」
「……?」
「ああごめん。俺の名前は佐久間明彦。お姉さんを死なせないために行動するよ」

キュラソーは訳が分からないように頭の上にクエスチョンマークを飛ばす。けれどそれには答えず、俺は彼女の手を引いて歩き出した。


もうどうでもいいや。
この世界が本当に漫画だったとしても、俺には関係ない。だって俺は異物だからな。悪影響を与えてこその異物だろ?

この世界にいる時点で、俺もここに生きる一人の人間だ。物語を気にする必要なんかない。

だから。


結局は俺次第

(物語に関わるも関わらないも。俺の勝手)
(それで不都合が起こったって知ったことじゃないな)

(さて!まずは彼女の結末をぶっ壊しますか!」)
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