走り出したら、止まらないのさ
『結局は俺次第』の続編。


はい。頑なにキャラや原作に関わろうとしなかったくせに、いざキャラと接すると見捨てられなくてどうせ関わるなら原作をぶっ壊そう。好きに生きようと思い至った佐久間明彦です。

いやーまさかこんなことになるなんて思わなかったよね。でも仕方がない。だって決めたのだから。彼女の結末を変えると。もう今更なのかもしれない。それでも、関わってしまったらもうその人は紙の上のキャラクターじゃない。生きた人間として認識してしまう。ならば、助けたいと思うのが普通だろう。
そして、一度関わると決めたのなら、もう原作なんてどうでもいい。知ったことか。俺は俺の思うがままに生きてやるさ。そんなもん考えながら生きるなんて、まっぴらごめん。

「そうさ名探偵。だからこそここで君と出会わなければいけない」

映画の通り入口前のベンチでキュラソーと座っていると、目当ての人物達が視界に入ってきたことでつい漏れた言葉に、隣にいるキュラソーが不思議そうに首を傾げる。それを笑って誤魔化し、もう一度主人公達に目を向けた。


「ねぇ。お兄さんは一体誰?」

キュラソーとの会話が一通り終わったところで、その隣にいる俺に話しかけてきた主人公。

「俺はただお姉さんを助けたいと思い行動する、通りすがりの一般人さ」
「助ける……?」
「俺の素性はどうでもいい。それよりもまず君に渡したいものはこれだ」
「これは?」
「お姉さんの携帯。さてさて、ここで名探偵に質問だ」

壊れたお姉さんの携帯を名探偵に渡すと、訝しげに見る彼にニッコリと笑いかける。

「一度黒に染まったら、もう白には戻れないと思うか?」

その質問に、二人の目が見開いた。俺はただ笑ってそれを見ている。すると、彼女の方は主人公の背中に隠れてしまったが、逆に主人公の方は徴発的に笑う。

「そんなことないよ。その意志があるなら、誰だってどんな色にだってなれるさ」
「その言葉を聞けてよかったよ。まあ君ならそういうと知ってたけど。じゃあ自己紹介だ。俺の名前は佐久間明彦。帝丹高校二年生の、組織も警察も探偵も関係ない正真正銘の一般人さ」
「組織……!?お兄さん、一体!」
「俺のことはどうでもいい。それより彼女だ。彼女のコードネームは【キュラソー】黒の組織No.2であるラムの腹心だ」
「何!?」
「とはいっても、今は記憶喪失だけどな」

ことも何気にいう男の言葉に、俺も灰原も驚愕し警戒するが、当の本人であるキュラソーはよく分かっていない様子で困惑していた。

「これはそんな彼女が保持していた携帯。その意味は名探偵なら分かるよな?」
「………お兄さんは、一体何者なの?」
「さっき言った以上のことはないな。それよりも、彼女のことはFBIと公安が追ってる。昨日あった首都高の爆発事故がそれだ」
「彼女はその時に記憶を失ったってこと?」

そこまで話してから、子供たちが来てしまった。
記憶を失っているとはいっても、それが本当なのか分からない組織の幹部と、何者なのか分からない男。あの子達を関わらせればどうなるか分からないと慌てたが、予想に反して二人は何もしない。彼女は困惑しているようだが、男の方はただ隣で座っているだけだ。

「やぁ少年達。俺の名前は明彦。彼女の味方さ」
「「「こんにちわ!明彦お兄さん!」」」
「はいこんにちわ。実は彼女、記憶喪失なんだ」
「えぇ!?」
「じゃあ俺達が姉ちゃんの記憶を思い出す手伝いをしてやるよ!」
「君達が?」
「はい!」
「だって私達」
「「「少年探偵団ですから!!」」」
「そっか……じゃあお願いしようかな!ね、お姉さんもいいでしょ?」
「え、ええ」
「じゃあ行こー!」
「あ!おいおめーら!」
「大丈夫さ名探偵。彼女があの子達を害することはない」

キュラソーの手を引き、止める間もなく走っていく子供たちを制止するが、それで止まるはずもなく走っていく。そして男は、慌てる俺達を静めるように止めた。
あっという間に見えなくなった子供たちとキュラソー、そして博士。何者なのか分からない男を睨みつけるが、そんなもの意にもかえさない様子で笑うだけだった。

「歩きながら話そうか。大丈夫。君達を傷つける気はないさ」

そう言って歩き出す男に警戒するが、灰原がその後に続いたことによって慌てる。

「お、おい灰原!」
「平気よ…この人の言っていることは本当だと思うもの」
「彼女の方が賢明だな。疑いすぎると身動きが取れなくなるぞ名探偵」

二人が歩き出すのだから、俺も後を追わないわけにはいかない。隣に並ぶと男は満足そうに笑った。

「あの子達と彼女と一緒にさせちゃったんだから心配だよな。だけどあれは必要なことなんだよ」
「必要なことって?」
「彼女はあの子達と接することで白に戻る」
「………ねえ、お兄さんは本当に何者なの」
「何度も言わせるなよ。あれ以上の情報はない。まあ疑うのは本能ってやつか?なぁ工藤新一君」
「っ!?」
「固くなんなよ。お前らを害そうなんて微塵も思っちゃいない。それを証明することはできないから、信じてもらうしかないけどな」

自分の正体がとっくにバレている。そしてその様子からきっと灰原の正体も。
得体の知れない男に正体がバレているということに体が固くなるが、男は変わらず薄く笑いながらこちらを見る。

「俺が今現在望むのは、キュラソーを助ける。ただそれだけだ」
「……組織の、組織のコードネーム持ちを助けるって、お兄さんはそっちの人間じゃないの」
「違う。厳密に言えば俺は"キュラソー"を助けたいんじゃない。白に戻った彼女を助けたい」
「どういうこと?」
「あの子達と接することで、彼女は記憶が戻っても白になるんだよ。けれどその先に待っているのは死だ。俺はその結末を変えたい」

嘘を言っているようには見えない。けれど、何故俺達のことを知っているのか。そして、妙に確信を持っているその言い方はなんなのか。それが分からないうちは警戒を解くことは出来なかった。けれど男は俺達のことに言及することはなかった。

「でもな、何もかも後手なんだ。だから彼女は死ぬ。だからこそ俺は君に教える。君が全ての鍵だからな」
「なんで、俺なんだよ」
「お、猫かぶりをやめたのか__そりゃあ、君は主人公だからな」

"主人公"とはどういうことなのか、問いかけても男はただ笑うだけで教えてはくれなかった。

「………それで、あなたが提示してくれる情報はなんなのかしら」
「この件に関わることで話せる全て」
「あら、その言い草だと話せないこともあるみたいね」
「そりゃあ君達に教えることで逆に不都合なこともあらからなぁ」

俺が悶々と警戒し悩んである間に、灰原は警戒しながらも男と距離をつめる。それに慌てたが、俺達を害さないという言葉が真実なのか、男は簡単に答えた。

「昨夜、公安に侵入者があった。盗まれたのはnon official cover。通称ノックリストだ」
「ノックリスト!?」
「そして、侵入したのはキュラソー」
「て、ことは組織にノックリストが!?」
「ところがどっこい。キュラソーは記憶喪失だ」
「ならまだやつらの手には渡ってないのか……」
「公安に侵入後、キュラソーは降谷零と赤井秀一に追われた。その結果が昨夜の爆発事故。そしてその途中で、キュラソーはラムにメールで報告をしたんだ」

__ノックはスタウト、リースリング、アクアビット、あなたの心配していたキールとバーボン__と。

男からキュラソーが送ったというメールの内容を聞いた瞬間、背筋が凍った。

「それじゃあ安室さんと水無さんが!」
「だがまだ送られたばかり。前者三人は断定されただろうけど、後の二人はまだどっちつかずだろうな」
「なら、なら早く連絡しなきゃ!」
「そこで、この携帯だ」

さっき渡してきた携帯をさす。それはボロボロに壊れており、とても中身を見れる状態じゃなかった。

「さっき一緒にいた博士なら、この中身を解析できるんじゃないか?」
「そうか!」
「やるなら急げよ。三人の暗殺は進行中だろうし、後の二人もすぐには殺されないが、拉致られるからな」

そう言うと、男は立ち止まった。いきなりのことでどうしたのかと見るが、男は笑って言い放つ。

「今言えることはここまで。しばらくは成り行きに任せるさ。まあ上手くやれよ名探偵」
「え、おめぇは来ねぇのかよ」
「まぁ今現在俺が出来ることはないからな。第一、ここでのイベントは出来るだけ忠実にそった方がいい」
「イベント…?忠実?」
「俺が今ここで名探偵に期待することは、ノックリストの事だけだ。それも別にどうでもいいし。俺にとっちゃそいつらは現実じゃないからな」

笑いながら話す男は、先ほどと何も変わらない。声のトーンも、雰囲気も、口調も、何も変わらない。けれどその口から出る言葉は、ノックである人が殺される可能性、いや殺されるという事実を現実のものとして知っているにも関わらず、酷く薄っぺらいものだった。

「なあ名探偵。俺は彼女を救いたい。その結末を変えると決めた。いいか?決まったんじゃない。決めたんだ。他者でも偶然でも運命でもなく、俺の意思でそう決めた。勘違いをするな。俺は、彼女を人間だと認識した。生きた人間だと。だから救うと決めた。死ぬとわかっている人間を見殺しにするほど、落ちぶれちゃいないつもりだからな。
なぁ、なぁ名探偵。余計な事はするなよ?ここで必要なことは、彼女と普通に接すること。ここでは本筋を変えない方がいいんだ。下手に弄って彼女が白に戻らなければ意味が無い。分かったな?」

男は、普通の一般人だ。違和感や得体の知れなさはあるものの、自分で言っているように一般人のはずなのだ。それは話すだけで何となく感じていた。けれど付き纏う違和感は無くなることは無かった。それは普通なら知りえない情報を多く所有しているからだと思っていたが、ようやく分かった。
この男は、他者を人間として見ていないのだ。人形か機械か、意思なき存在としか認識していない。その異常性が見え隠れしている。だからこそこんなにも違和感があるのだ。

それを理解すると同時に、目の前の男の危うさに気が付き恐怖が駆け巡った。

「最後に一つ忠告だ。観覧車と爆弾には気をつけろ。じゃあな」


***

無事主人公達との接触終了〜。いやー、分かっちゃいたけど、やっぱメチャクチャ疑われたな。まあ最終的には俺のことはともかく言っていることは信じてくれたみたいだし、別にいっか。
折角の遊園地に一つも乗らないなんて虚しいが、仕方がない。ここで下手に俺が手を出してキュラソーが本筋とは別になってしまったら意味が無いからな。

とりあえず、その場で決めて行動してしまったので何も持っていない。だから、彼女を救うために道具を揃えることにした。
まずはライト。ライフル用の暗視スコープ。後はなんだ?
そもそも、普通の事件ならともかく映画版で俺に出来ることなんてほぼない。だって通常に比べてクオリティも迫力も規模もテロといっても差し支えないレベルで起こるんだぞ?そんな中でちょっと運動ができる程度の一般人に何が出来るかって話だ。
だから、俺に出来ることは情報を渡して先手を打ってもらい、キュラソーの死亡確率を低くしてもらうこと。最後の観覧車は、俺も一緒にトラクターで突っ込めばどうにかなるだろ。

よし、とりあえずはこのライトを爆弾の起爆スイッチの場所に置いておこう。暗視スコープは主人公に渡しておけば赤井秀一に渡るだろう。


***

「よぉ名探偵」

夜。キュラソーの記憶喪失の鍵に気がついた俺は、公安の人達が記憶を戻そうと観覧車に乗るのを阻止しようと東都水族館まで来ていた。
急いで探さなければとスケボーから降りて走り出した時、その声は聞こえた。

「!お前は!」
「首尾はどうだい?ノック達は助かった?」
「……なんとか間に合って、全員無事だ。とはいっても、最初の三人は死んだことにして組織を抜け出し、後の二人も疑惑は残ったままだけど」
「まあ上々かな。それで彼女は?」
「そうだ!早く行かなきゃキュラソーの記憶が戻っちまう!」
「まあ落ち着けよ名探偵」

こんなところで時間をくっている場合じゃないと思い出し、走り出そうとする俺を止める男。

「今いったって間に合わない。キュラソーは観覧車に乗りそして記憶を取り戻す」
「そうなっちまったら折角工作できたのに、また安室さんや水無さんたちが危ねぇだろ!」
「大丈夫だって。昼間は彼女に対して余計な事はしなかったんだろ?」
「あ、ああ」
「なら大丈夫だ。彼女は白に戻る。そういうストーリーだ」

まただ。またこの男はこの世界が現実ではなく物語かのように話す。
それでも、男が言っていることに嘘はなかった。全部あっていた。それこそ、知るはずのないキュラソーを追っていた二人の名前まで知っていた。疑問も疑念もあるが、それでも男はその情報をキュラソーを助けたいと言って俺たちに渡していた。そこに嘘はないんたろう。
だから、信じてみることにした。

「………明彦さん、この後、一体何が起こるんだ」
「!__キャラに名前を呼ばれたのは、初めてだな」
「?明彦さん?」
「あ、ああ。この後、キュラソーを奪還するために組織が動く。だが下には一般人と公安がいる。ならばどこからくるか」
「空か!」
「そう。そしてやつらはキュラソー奪還に失敗した時は、爆弾で全てを吹き飛ばす気だ」

俺が名前を呼ぶと、驚いたように目を見開き硬直する明彦さん。何か言ったようだが、よく聞こえなくて促すと、我に返ったようにこの後起こることを教えてくれる。

「爆弾は、観覧車の車軸に設置されている。時間になったらこの場の電気を全てカットし、暗闇に乗じてヘリで来るぞ」
「車軸って…ならもし爆発したら観覧車が転がり落ちちまう!」
「ヘリはオスプレイだ。俺が出来ることはここまで。観覧車には降谷零と赤井秀一もいる。やつらと協力してなんとかしろ」
「分かった、ありがとう明彦さん!」
「と、行く前にこれを持っていけ」

手渡してきたのは、ライフルのスコープ。
どうしてこんなものを渡してくるのか疑問に思い見上げると、明彦さんは苦笑していた。

「暗視スコープだ。赤井秀一に言っておいてくれないか?"夜に行動するんだから、予備にも暗視スコープを持ってこい"って」
「……明彦さんは、一体どこまで知ってんだよ」
「全ては知らないさ。知っていることだけ知っている」
「………」
「ほら、早く行け。そろそろ降谷零と赤井秀一が観覧車の上で殴り合う頃だぞ。さっさと止めてこい」
「ッ、後でキッチリ教えてもらうからな!」

渡されたスコープを落とさないように閉まって、今度こそ走り出す。

あの最後の忠告ってのはこのことだったのか!

***

走り出す主人公を見送って、俺は建設現場に残っているトラクターに向かう。
観覧車に向かう姿はまさに主人公だった。その小さな身体で色々なものを弾き返し、修羅場を潜りのけて、謎を解き、犯人を捕まえる。まさに主人公。

「だからこそ、俺は君達を人間だとは思えないんだよ」

紙の上の存在。作者によって決められたストーリーをなぞるだけ。絶対に死ぬことはない。だから、俺は君達よりも彼女を優先する。

***

やつらが明彦さんの言う通りヘリで襲撃してきた。なんとか爆弾は安室さんが解体してくれたが、やつら銃を乱射してきてこのままじゃ皆蜂の巣だ。そうでなくても観覧車がその衝撃に耐えられない。
赤井さんなら、プロペラの結合部を撃つことで落とせると言った。けれど持ってきていた暗視スコープがおしゃかになってしまい、後に残ったのは普通のスコープ。
そこで、ここに来た時のことを思い出した。

「赤井さん!これを使って!」
「これは……ボウヤ、何故こんなものを持っているんだ」
「明彦さんが持たせてくれたんだ!」
「明彦というと、ノックリストのことを教えた人物か」
「それと、明彦さんから"夜に行動するんだから、予備にも暗視スコープを持ってこい"って」
「……その明彦というやつは、一体何者だ?」

赤井さんは受け取った暗視スコープを取り付けるが、正面からは狙えない。ならばと安室さんが解除した遠隔式の爆弾を起動させ、体勢を崩させた。それによって赤井さんが撃ち落としてくれたが、やつらは最後の最後で観覧車の車軸を壊した。それによって片方の観覧車が転がり始める。

「やばい、止めないと!」

サスペンダーでせき止めた。サッカーボールを膨らませて止めた。それでも完全には止まらない。
まだ人が大勢いる。このままじゃあそこにいる全員が潰されてしまう。

どうしたら、どうしたらいい。

その時。建設現場から一台のトラクターが飛び出してきた。それは勢いよく観覧車にぶつかる。

***

トラクターの中で待機していると、腹に鉄の棒が突き刺さった状態でキュラソーがやってきた。
そして俺が乗っているのとは別のトラクターに乗り込むと、勢いよく出ていく。
それを見送り、俺はエンジンをつけた。

***

一台目のトラクターがぶつかり、観覧車は勢いをなくした。けれどそれは少しだけで、やはり観覧車は止まらない。
すると勢いよくもう一台トラクターがつっこんできた。すると二台分の威力で観覧車は間一髪止まった。けれどその前に、トラクター二台は潰されてしまった。

あれを運転していた人がいる。けれど潰れてしまった。運転していた人は、無事なのか。

***

勢いよく観覧車に突っ込むと、隣にいるキュラソーが驚いていた。けれど一台だけなら潰されるまで止まらない。なら二台なら、二台ならば逃げるだけの時間は稼げるはずだ。
予想通り、観覧車は止まってきた。これ以上の長いは危険だ。
運転席から脱出し、隣のキュラソーの扉を開ける。

「お前は……!?」
「さっさと脱出するぞ!!」

車体が歪み始めている。早くしなければいけないのに、キュラソーは伸ばした手を掴まない。

「駄目だ、まだ止まっていない!」
「もう十分だろうが!二台ならこれで止まる!このままじゃ死ぬぞ!」
「構わない!」

ああもう。あの子供たちを助けるためになんでここまでするんだ。あいつらはレギュラー。何もしなくったって作者が殺すわけがない。けれで彼女は違う。彼女はこのままじゃ死ぬ運命。折角白に戻れたのに、なんで。

「っ、いい加減にしろ!!」
「!?」

一瞬だけ潜り込み、キュラソーの腕を掴んで無理やり引き上げる。抵抗するが、瀕死の状態では満足にそれも出来ない。

「このままじゃあんたは死ぬ!そういう運命だからだ!だけどそれがどうした!!俺にとってはあんたは今生きている人間なんだよ!折角白に戻って、これからだってのに!なんで死んじまおうとするんだよ!
それが運命だからか!?なら、俺はそんな運命認めない!!!俺は!俺自身の意思で!あんたを助けるって決めたんだよ!!!」

___俺の名前は佐久間明彦。お姉さんを死なせないために行動するよ。


なんの関係もない。なのに一番最初に話しかけてけてくれた。助けると、言ってくれた。
目の前で必死の形相で私を引っ張りあげようとする彼が、ひどく眩しくて。気がついたらハンドルから手を離し、その腕にしがみついていた。

「うおりゃぁぁぁ!!」

キュラソーを引っ張った力のまま後ろに倒れ込み、トラクターから転げ落ちる。その瞬間。さっきまでいたトラクターが観覧車に潰されていた。

「なんとか……危機一髪か」
「………………なんで」
「ん?」
「………なんで、私を助けた」

まだ生きている。彼女を助けた。助けられた。

「言っただろ?お姉さんを死なせないために行動するって」



走り出したら、止まらないのさ

「よお名探偵。やっぱり無事だったか」
「あ、明彦さん!?」
ひょっこりと現れたのは、最後まで謎の人物だった明彦さん。それが何故かボロボロで、腕の中には血塗れのキュラソーがいた。
「なんでキュラソーが!?」
「彼女怪我しててさ、手当してくんね?」
救急員にキュラソーを渡し、明彦さんは俺の隣に座り込んだ。
「なんでそんなにボロボロなの?」
「そりゃああのトラクターを運転してたのは俺と彼女だからな」
「え!?」
「いやー危機一髪だった」
「君が、明彦君か?」
その時、安室さんと赤井さんがやってきた。
「君には色々と聞きたいことがあるが、まずは観覧車を止めてくれたこと感謝する」
「停電になった時、ライトを置いておいてくれたのも君だろう?助かった」
「そーですか__名探偵。俺そろそろ帰るな」
「待ちたまえ。聞きたいことがあると言っただろう」
「俺が関わるのはこれだけです。本当なら関わるつもりはなかった。だからあなた方が俺を調べたってなんの意味もありませんよ」

それじゃ!

そう言って明彦さんは制止の声も聞かずに、人混みに紛れて去ってしまった。


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