一夜の過ちからの
夜。今日も一日仕事を頑張って、ご飯を食べて。お風呂に入って、少しだけ明日の準備をして。さあ寝ようとしたときにチャイムが鳴った。
あと少しで日付が変わる時間。本当ならこんな時間の来訪なんて出ない方がいいのだろうが、急用で駆け込んでくる友人も多いのでもしかしたらそうかもしれないと、チェーンはかけたままで鍵だけ外して開ける。

「はいはい。こんな夜中に来るのは誰ですか」
「俺だ」
「え!せ、先輩!?」
「うるせぇ。叫ぶな」
「いやいやいや!なんで!?てか酒くさ!」
「いいからさっさと開けろ」
「あ、はい」

そこには何故だか相澤先輩がいた。
先輩とは学生からの付き合いで、卒業した後も度々お世話になっている。マイク先輩と一緒に飲みに行ったり遊びに来ることもあるが、さすがにこんな時間。それも一人で来たことはなかったので驚く。酒の匂いから、飲んだ帰りなのだろうか。
なぜ来たのか訳が分からず、習慣でつい先輩の言う通りチェーンも開けて中に入れてしまった。

「え、本当にどうしたんですか。こんな時間にお一人で来るなんて珍しい」
「マイクと飲んでた」
「でしょうね。あ、お水飲みます?」
「頼む」

フラフラとした足取りでリビングに座り込み、頭を抱える先輩に水を促せば一気に飲み干した。きついほど酒の匂いがすることから、相当飲んでいることがわかる。

「でもマイク先輩は一緒じゃないんですか?」
「………あいつはどうでもいいだろ」
「あ、その反応、喧嘩でもしたんですか」

マイク先輩の名前を出せば不機嫌になり、喧嘩でもしたんだろうと当たりをつけた。すると、背中に衝撃がきた次の瞬間。視界に映るのは相澤先輩と天井だけだった。

「………え?」
「俺と二人きりなのに、他の男の名前をだすんじゃねぇよ」

何故か不機嫌マックスな相澤先輩。
背中にはフローリングの冷たい感触がして、腕は一括りにされ頭の上で抑えられている。腰には相澤先輩が跨り、完全に身動きが封じられていた。
つまり、押し倒されている。

「え、は!?ど…どうしてこうなっているんですか?」
「お前が他の男の名前を出すのが悪い」
「いやでもマイク先輩と今の状況が結びつきません!」
「また言ったな。いい度胸だ」
「わー!待ってください!酔っているんですか!?」

きついほどの匂いに、酔っているであろうことは分かっているが、今まで相澤先輩と一緒に飲みに行っても自分の限界を分かっている飲み方だった。何よりもこんなに匂うほど飲んでいることは見たことがない。

「この年になると頭でゴチャゴチャ考えるだけで、行動に移すことが難しくなってな」
「な、なんの話ですか!?」
「まあ既成事実を作っちまった方が合理的だろ?」
「何が!?……ひゃ、あ」

何やら不穏な気配を感じたが、その疑問に答えられることなく首筋に頭を埋め舐められる。そんな所を舐められたなんて初めてで、つい口から甘い声が出た。自分から出たとは思えない声に顔を真っ赤にするが、先輩は嬉しそうに笑った。

「首、感じんのか」
「ちょ、本当にやめてくださ、い"!?……」

ガブリと、首を噛まれた。痛みが凄くて、感覚的に血も僅かに流れた。それを舐めとって、傷に沿うように舌を這わせられると、ゾクゾクと背中を駆け巡る。

「い、た……先輩、首」

痛みでじくじくするし、さすがにやりすぎだ。しかし抗議のために出した声はパクリと食べられてしまい、いきなりの事で開いていた口から先輩の舌が侵入してくる。逃げても絡め取られてしまい、吸い上げられる度に背中にゾクゾクと何かがかけた。

「ん、はぁ……」
「っ……んっ!?」

いつの間にか服の中に侵入していた手が脇腹やお腹を撫でて、キスをされている間に背中に周りブラを外されてしまった。
あまりにもあっさりと外され、手慣れている感じに驚いたがすぐに意識はキスに持っていかれた。

「ん……ぁ、はぁ」

やっと長いキスから解放されても、息がきれて抵抗する力なんて残っていなかった。飲み込みきれなかった唾液が顎に伝い、先輩がそれを舐めとった。

「せ、せんば……」
「黙ってろ」

何とか止めようと絞り出した声は一刀両断された。
そのまま侵入していた手が膨らみを掴む。感触を確かめるように揉んでくるその手つきに、息が上がってしまう。時折悪戯に乳首を指でこねたり弾いたりするものだから、必死で漏れでる声を押し殺した。

「おい、声出せ」
「ん、……い、や……です」

声を出さないことを不満に思ったのか、先輩は服をたくし上げて片方の胸に吸い付いた。

「ひゃ、あ!」

もう片方の胸には手でいじられ、舌で転がされ時折噛まれたりと同時に与えられる快感に声が我慢出来なくなる。

「ひ、っあ……せんぱ、もうやめ…っ」

うるさいと言わんばかりに噛まれ、少しでも口を開けば喘声しか出さないため唇を噛み締めて快感をやり過ごすしかない。しかし先輩の手がおもむろに下に降りていき、そこに触れた時は声が出るとか関係なしに慌てた。

「ちょ!せんぱい……!」
「濡れてるな」
「言わないでください………!!」

そこは自分でも分かるほどに濡れていて、改めて先輩に指摘され真っ赤になる。まだパンツもズボンも履いたままで、なのに先輩は器用に中に侵入してきた。

「っ、ん……はぁあ!」

異物感に眉を潜めるが、唐突に先輩がクリを弄ってきて身体が跳ねた。先輩はその反応に笑うと、指を中に入れてかき混ぜながら親指でクリを潰したりとしてくる。しかも舌で乳首まで攻めてきた。
一気に押し寄せる快楽にまともに抵抗など出来ない。

「あ、はぁんぁああ……!ぁあ!」

身体が痙攣して脱力する。
荒い息を何とか落ち着かせようとしていると、先輩はようやく上で一括りにされていた腕を解放してくれた。でもまだ上から退くことはせず、首に顔を埋めて舐め始める。

「んっ、先輩。本当にもう、これ以上は」
「理央……」

かかる息が熱くて、耳元で聞こえる低い声が腰にくる。
先輩は私の背中に手を回して、抱きしめると腰を押し付けてきた。服の上からでも分かるほどに勃っているそれに、真っ赤になって押し戻そうとしてもそれ以上の力で抑えられた。

「ちょ、先輩……!?」
「理央……挿れたい」
「!!??!?」

言われた言葉が理解できない。慌てて顔を見れば、先輩は熱に浮かされたような表情でこちらを見つめ、その目は獲物を前にした狩人のようだった。

「理央……」
「う、……あ」

熱を含んだ声で甘く名前を呼ばれ、微弱だった抵抗の力がさらに入らなくなる。

ずっとずっと好きだった。学生の頃に一目惚れして。卒業してヒーローになっても、ずっと捨てきれなかった。たまに会うだけで気持ちが浮き立ち話すだけでも凄い幸せだった。
そんな人からこんな風に求められて、駄目だと分かっていても拒絶することなんて、出来なかった。
どうせ振り向いてくれない。一歩踏み出す勇気がない。なら、たった一夜だとしても欲せるのなら欲しかった。

「……も、好きにしてください」

腕で顔を隠しながら消え入りそうな声で答えると、先輩は嬉しそうに笑って私を抱き上げた。突然のことで慌てて落ちないように首に手を回すと、先輩はそのまま一直線に寝室までいきベッドに落とした。
待って何で先輩が私の家の寝室を知っているんだ。

そのままあっという間に中途半端に着ていた服を脱がされ、先輩も着ていた服を全て脱いで覆いかぶさってきた。

「ん、ふぁ……ぁ」
「はぁ、ん……」

本当に食べられてしまいそうなほど深いキスで、一気に快楽を引き出される。上顎を舐められた時なんて背中がゾクゾクした。
もう何も考えられず、ただ与えられる快楽に身を委ねていると、下半身に熱いものがあてられた。
ゆっくりと、ゆっくりと進んでいくそれに、息が詰まる。枕を引き寄せ必死で耐えていると、やがて全て納まったのか動きが止まった。

「は、はぁ……先輩?」

動きがない先輩に瞑っていた目を開けて見ると、見なければよかったと後悔した。

鍛え上げられた肉体は無駄な筋肉など一つもなく、ヒーローをやっていく上でついた傷が痛々しい。けれど溢れんばかりの色気が出ており見ているだけでクラクラした。そんな彼が、ギラリと欲を孕んだ目でこちらを見た。と思ったら腰を掴まれ一気に動き出した。

「ああん!は、あぁ!!」
「は、理央……」

ガツガツと勢いよく突かれ抉られ、一気に押し寄せる快楽にあっという間に達してしまう。けれど先輩は止まってくれずになおも責め続ける。

「あ、あっ…ひゃぁ!も、まっああん!」

またも達してしまっても先輩は止まってくれない。それどころか胸に吸い付いてきて舌で転がしたり噛んだりする。一度に色々な場所から来る快楽に我慢なんて出来なくて達してしまう。

「あぁあ!っんあああ!」
「っ、く……はぁ」

それと同時に先輩もまゆを潜めて堪えるように声を漏らすと、お腹の奥に暖かいものが広がる。
ああ中に出されてしまった。そう思いながらも連続して絶頂したことで身体がだるい。
その時、息を整えてもたれ掛かっていた先輩が唐突に腰をつかむ。

「……先輩?」

訝しげに呼ぶと、先輩は依然として変わらない欲をその目にともしながら、口元に笑みを携える。

「………足りん」
「え、ひゃあ!あ、っんぁあ!」


それから何度も何度も絶頂に導かれ、最後には気絶する形で意識を失った。


***

朝、陽射しが眩しくて起きた。すると一番最初に目に入ったのが見知らぬ天井で、どういうことなのかと警戒すれば、隣から誰かが身動ぎした。
慌ててそちらを見れば、そこには後輩である有間理央の姿。しかも何も着ていない。自分の格好を確認すれば案の定真っ裸。

どうしてこうなったのかと朧気な記憶を手繰り寄せるれば、どう考えても原因は昨日のマイクとの飲みだ。


昨日は、マイクと飲みながら理央の話になった。学生時代からずっと片想いしているのをマイクは知っていたから、さっさと行動しろと発破をかけられたんだ。けれどどうしても一歩を踏み出せずにいた。そしたら、何故だかやたらと飲ませてきて、マイクが何かを言ったんだ。

__「そんなウジウジしてっと、俺が取っちまうぞ!」

ああ。それで頭にきて、店を出たんだ。それからもう理央の事しか考えられず、足はあいつの家に向かった。
それから記憶がないのだが、正直店を出た時点で足が覚束無いほど酔っていたんだ。


「………やっちまった」

目を手で覆って項垂れる。

そう、記憶はなかった。けれど理央を押し倒してその身体を貪っている時のことは夢のような感覚で覚えている。

今まで見たことがなかった女の顔で、俺によって乱れよがるあいつを見て酔い以外で理性が吹っ飛んだ。それから歯止めが効かずに抱いて、抱き潰して。そのまま今に至るというわけか。

これからどうするかと頭を抱えていると、隣が動いた。

「うぅん……?」
「………」
「…………先輩?」
「おはよう……」
「おはようございます……?」

まだ覚醒していないのか、ポワポワと返事を返す理央。今は何も着ていないわけで、起き上がったということはかかっていたシーツも落ちるわけで。晒される肢体をじっと見ていると、その視線を追った理央もようやく今の状況に気が付き慌ててシーツを被った。

「………」
「…………」
「………あの、」
「なんだ……?」

気まずい雰囲気の中、理央が先に口を開いた。

「昨日の……」
「…………悪かった」
「いえ、……あの、昨日のことは、忘れますから」

理央が言った言葉に、身体が固まる。

「だから、先輩もあまり気に病まないでください。……え〜と、はい!そういうことで!」
「何がそういうことなんだ」
「え、わぁ!?」

巻きついていたシーツを剥ぎ取って、上か乗りその身体をベッドに縫い付けた。
驚き逃れようともがくが、力で叶うはずもなく逆に押さえつける力が強まるだけだった。

「せ、先輩……?」
「悪いが、成り行きでも不可抗力でも何でも。折角進めた足を戻すつもりはない」
「?先輩、言っている意味がよく…?」
「せっかくできたこの機会だ。これを逃しちまったらもうないんだよ」

逃がさないというようにその真剣な眼差しで射抜く先輩に、息を飲んだ。

「好きだ」

だから、次に言われた言葉に理解が追いつかなかった。だって、そんな夢みたいなこと、あるわけがない。それでも真っ直ぐに見下ろす先輩からは冗談でも嘘でもないことが嫌でもわかった。

「昨日は、すまん。正直ヤルつもりはなかたっし、酒に酔ってのことでもある。だが俺は後悔してねぇし、一夜限りにするつもりもねぇ」
「先輩……」
「好きだ、理央。学生の頃からずっと」

その言葉を聞いて、溢れ出る涙を止める術なんて私は知らない。
先輩は慌てたようにギョッとしたが、私はそんなのお構い無しにその首に手を回し抱きしめた。

「私もです……私も、ずっと、ずっと前から好きです」

先輩の手が背中に回り、ギュッと抱きしめてくれる。その温もりが夢じゃないことを教えてくれて、涙がさらに溢れた。

「こんな始まりで悪いな」
「いいですよ。でもなんであんなになるまで飲んでいたんですか?」
「………マイクの野郎が、飲ませてきやがった」
「あー……」

つまりは全てマイク先輩の策略ということか。恐らく私と先輩両方の想いを知っていて、今の関係を焦れったく思っての行動だろう。まんまと策略にはまったのはともかく、感謝しなければ。

「…………先輩、差し支えなければ少々離していただいてもいいですか?」
「なんでだ」
「あー、え……とです、ね」

抱きしめたままなかなか離れない先輩に、恐る恐る提案すれば案の定聞かれる。それに気恥しい思いをしながら、先程からある下半身の違和感を取り去るために口を開く。

「シャワー……浴びてきてもいいですか?」
「……もう少しこのままでもいいだろ」
「いや、それは私も何ですが……あー」
「なんだ。はっきり言え」
「…………………昨日の後始末をしていないんですよ」

そこまで言われた所で思い出す。昨日は理性も吹っ飛んでしかも酒が入っていてゴムにまで頭が回らなかった。その上何度もヤッた訳で。

「………………すまん」
「いえ。だから早いところ掻き出したいんですよ」
「ああ………」

腕を離すとスルリと抜け出してしまって、ついその後を追うように手を伸ばす。しかしすんでのところで掴めず、伸ばした手は空をきるだけだった。

「………」

なんだか虚しいような、よく分からない気分だ。とりあえず理央の口から掻き出すなんて出て、その場面を想像し少し興奮したことは言わないでおこう。


一夜の過ちからの

(おい)
(お!?この間はどうなった!)
(やっぱてめぇの差金か。わざと酔い潰しやがって)
(それぐれぇやらねぇと行動しないだろ?)
(……)
(その様子だと上手くいったようで安心したぜ!)
(とりあえず一発殴らせろ)
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