願うならば


願うならば

戦国の世で忍の価値など犬畜生にも劣る。
それでもこの道を進むのはそれしか道がないから。それしか考えられないから。

でもあの学園では、それ以外の生きる術を教わった。

忍びを育てるのにはおよそにつかない優しさと、温もりがある学園。
行儀見習いもいた。いろいろな身分のやつらがいた。
上級生になれば本格的な忍の修行が始まり、その過酷さに何人も去っていった。

それでもしがみついて、最後に残った同級生はたったの六人だった。
組なんて関係なく一緒にいて、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に迷って。一緒に笑いあった。

楽しかった。幸せだった。


どんなに任務や実習で心身ともに疲れきろうが、食堂のおばちゃんは温かい食事をくれた。
どんなに心がすさもうと、眩しいぐらい純粋な可愛い後輩たちがその優しさで包んでくれた。
道を誤ろうと、引き留めてくれる友がいた。
道を指し示してくれる先生方がいた。
支えてくれる皆がいた。

楽しくて、楽しくて。

一歩でも外に出れば戦国の世が広がろうとも。
学園を巣立てばなんの庇護もなくただ一人でいきることになろうとも。
その思いを支えに生きられると思った。





卒業の日。
俺たちは学園が一望できる丘に集まった。

「貴様らとも今日で最後だな」
「せいぜい戦場で会わんことを願っているよ」
「その時は全力でやりあうぞ!」
「………手加減、無用」
「でもみんな体には気を付けてね」
「大丈夫だろ。死んでも死なねぇやつらばかりだ」


例え敵として会おうとも、全力で戦う。
誰もがそう胸に誓っていた。


「なぁ、この中で誰が一番早く死にそうだと思う?」
「それは今言うことか!?」
「まぁまぁ。僕はそうだなぁ………小平太かな。いつも後先考えずに行くんだもの」
「そういう伊作のほうが早死にしそうだがな」
「誰彼構わず助けるお人好しだからな」
「ポックリ行きそうだ!」
「………不運で」
「みんな酷くない!?」


これから旅立っていくとは思えないほどいつもどおりに笑いあった。


「まあ、冗談抜きで考えるなら明彦だろうな」
「そうか?」
「お前はどっかで抜けてるところあるからなー」
「だけど伊作と小平太も負けず劣らずだと思うが」
「こいつらは本当にヤバイときはしっかりしてるんだよ」
「むぅ……」
「あ!なら約束しない?」
「………約束?」
「そう。何年か、五年ぐらいかな?それぐらいたったらまた皆で集まるんだよ」
「いいな、それ」
「誰か死んでたらどうするんだよ」
「構わん。酒のつまみにしてくれる」
「いつにするんだ?」
「五年後の春。最初の満月の夜は?」


伊作の言葉に全員が同意した。


「「「「「「「じゃあ、また!」」」」」」」




























ふと意識が浮き上がって目を覚ます。


ああ、懐かしい夢を見た。
あれからまだそれほどたっていないだろうに、もう懐かしいなんて思うなんてな。
あいつらと敵として会うことはなかったが、これじゃあ集まるときに酒のつまみにされてしまう。

自嘲気味に笑うが、既に意識は沈みかかっている。
恐らく次に目を閉じたらもう二度と開くことはないだろう。
そう確信できるほどにこの体は手遅れだった。

先程から腹の傷の血がいっこうに止まらず、命が流れているのを感じる。


しくじったなぁ……


地面に横になり、もう指一本動かせない。


このまま死ぬのか。
誰にも知られず。こんなところで一人寂しく死んでいくのか。

というか、あいつらのいう通り俺が一番早く死んじまうよ。





ああ。あの頃は楽しかったなぁ。




願うならば



(あいつらともう一度)
(敵としてでもいいから、せめて一目、会いたかったなぁ。)
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