夜に笑うは狂人者

夜に笑うは狂人者

夜遅く。誰もが寝静まっている時間。
私は一人路地裏にいた。

いや、一人というのは語弊だ。
正確には人だったものが私の足元に散乱している。


「あー……つまんないや」


私は、何人もの命を刈り取った愛用のナイフを手のなかで弄びながら端に置いてあった箱に腰かける。


「どいつもこいつもこーんなに簡単にやられちゃってさ。ヒーローなら楽しめるかと思ったらとんだ期待外れだよ」


最初はその辺のチンピラだった。
それが本物のヴィランになり、遊びの対象がヒーローになるまでそう時間はかからなかった。

さっきまで遊んでいたものにも既に興味を失い、もう帰ろうと立ち上がると一つの気配がして上を見上げる。


「__私が!きた!!」

"彼"の存在を告げるその言葉が聞こえると同時に、突風を携えてオールマイトがこの場に現れる。

「………あっは!」

その存在を認識すると、私は自分の頬が勝手につり上がるのがわかる。

「君は、今世間を騒がしている通り魔、いや、ヴィランの『遊び人』であっているね?」
「『遊び人』?そんなもの名乗った覚えなんてないけど、この場を作り出したのは紛れもない私だよ」


『遊び人』。それは最近世間を騒がしているヴィランのことだ。
一般人も。ヴィランも。ヒーローも。何一つ関係なくたた己の快楽のを求めるヴィラン。そして、自分の欲求を満たすためならば他の凶悪ヴィランにも平気で手を貸す。


まあ私のことなんだけどの!


オールマイトは私の姿を見て眉をしかめる。

「どうしたの?」
「いや、まさか遊び人がこんな子供だとは思わなかっただけだ」
「子供だからってそんなの偏見だよ。今は個性さえ使えば地力なんてあまり意味をなさない時代だからね」
「……君は、なぜこんなことをする?何か理由があれば減刑されることだってある」
「理由……?」


オールマイトがいった言葉に、腹のそこから笑いが込み上げてくる。

「ふっ、ははは。あっはははは!!!理由?理由だって!?そんなものあるわけないじゃん!私は私の欲求を満たすだけ!
貴方たちもそんなこと分かっているんでしょ?だから『遊び人』なんて名前をつけた」


私の返答にオールマイトは顔を歪めるのがわかる。

ああ面白い!あの平和の象徴の顔を歪めているのは他ならない私なんだ!


「そうか……ならば手加減不要だな」

刹那。
オールマイトの姿が目の前から消えた。

頭の方に風を感じ、私は自身の個性を発動させる。

「っ!?」

私の頭に降り下ろされたオールマイトの腕は、紛れもないオールマイト自身によって防がれていた。

「これが君の個性か……!」
「私の個性は"影"。それは貴方自身の影よ。自分自身と戦うなんて初めてでしょう?」


影にオールマイトを抑えさせて私は距離をとる。

「貴方と遊ぶのはとっても楽しそう。でも今日はもう夜が明ける……また遊ぼうね!」
「待て……!!」


オールマイトの制止の声を背後に、私は影にその身を滑り込ませてその場を立ち去る。








夜に笑うは狂人者



(貴方と遊ぶのはとっても楽しい。けど、折角出来た縁を一度きりで失うのは勿体無いじゃない?)
(さぁ。楽しい楽しい追いかけっこの始まり始まり〜)

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