自分と周りで違う認識してる時ってあるよね

やあ初めまして。俺の名前は佐久間明彦。25歳の社会人だ。ちなみに喫茶店のオーナーをやってる。元々は親の店だったんだが、俺の腕を認めてもらってからは名実ともに俺の店になった。運動神経、頭脳共に可もなく不可もない、平均を地にいく男。目つきの悪さがコンプレックスだが、まあ何処にでもいるようなただの一般人だ。
友達はいない。………なんだろ、目から水が流れてきたよ。いやいや。これでも昔は友達を作ろうと行動したんだ。でも人見知りで対面すると上手く言葉が出ない。それに加えてこの目つき悪さのせいでいつも遠巻きにされていた。なけなしの勇気を振り絞って話しかけても、いつも硬直されるか逃げられるかだ。周りでは俺の話が飛び交っていた。きっとあれは悪口だ。イジメ、ヨクナイ。
まあそんなこんなで佐久間明彦。25歳。喫茶店勤務。ポッチ。米花町で今日も元気に働いてます!


***

【喫茶クロエ】最近話題になっている喫茶店だ。といっても特別雑誌やテレビで取り上げられているわけではなく、口コミで一部から人気になっているだけだ。
理由は簡単。普通に美味しいのと、店の雰囲気が心地よいこと。そして、店のマスターが美人なのだという。
なんでも店自体が小規模なのでマスター一人で切り盛りしているらしい。しかも性別関係なくファンがいる。

そんな話題の店に園子が食いつかないわけもなく、今俺達は件の喫茶店に来ていた。

「よーし!イケメンに会いに行くわよ!」
「園子!あんまり騒いじゃお店の迷惑になるわよ!」

意気揚々と扉に手をかける園子に、蘭も宥めながらも興味があるのか、僅かに浮き足立っているように思える。

「いらっしゃいませ」

来店を告げる鈴の音に続いて、低く静かな、耳に自然と入ってくるような心地のいい声が出迎えの言葉を伝えてきた。
彼は、男にしては長い美しい黒髪を後ろで一つにくくっている。ただそれだけの事なのに何故だか彼がやるだけでとても美しく、窓からもれでる日差しが彼をうつし、まるで神秘的な一場面のようだった。

「何名様でしょうか?」
「……あ、さ、三人です!」
「申し訳ありません。ただいまテーブル席は埋まっておりまして、カウンターになってしまうのですが…」
「い、いいえ!別に大丈夫です!」
「は、ははい!私たちは別にどこでも!」
「申し訳ありません。ありがとうございます」

あまりの美しさに惚けていた三人。いつもはイケメンを見ると騒ぐ園子も促す彼に頷くことしかできず、案内された席に大人しく座った。漆黒とまで言えるほど黒い瞳で眉を下げながらいう彼の言葉にNOと言えるはずもない。
そのまま彼はカウンターの中に入ると、ちょうど自分達の前あたりに立ち作業をし始めたことで、園子と蘭はソワソワしっぱなしだった。

「あ、あの!」
「はい」
「え……と、アイスティーください!」
「あ!私はアイスコーヒーでお願いします!」
「かしこまりました。僕は何にする?」

にこやかに注文に答えると、彼はコナンの目線に入るように少し屈んで聞いてきた。
あの綺麗な瞳に自分が映り込んでおり、カウンター席も相まって思いのほか近い距離にとっさに後ろに仰け反ってしまった。

「あ……ごめんね突然。怖がらせちゃったかな」
「……あ!う、ううん!ビックリしちゃっただけ!」
「そう?」
「うん!僕オレンジジュースがいいな!」
「かしこまりました」

コナンが仰け反るのを見ると、彼は寂しそうに眉を下げて距離をとる。それに慌てて弁解すれば、彼は首をかしげる。注文すればすぐに取り掛かってくれたので、ひとまずは安心だ。

「……はー、予想以上だわ」
「ねー……あの園子が騒がないなんてビックリだけど、あの人なら仕方ないよね」
「ガキンチョはいっちょまえに顔を赤くしてるしね」
「な!し、してないよ!」

彼には聞こえないように話していると、すぐに注文したものが手元に届く。

「お待たせいたしました。こちらアイスティーとアイスコーヒー、それとオレンジジュースです」
「あ、ありがとうございます!」
「ではごゆっくりどうぞ」

噂通り綺麗な人だった。あの鋭い目つきも凛々しく、なのに柔和に微笑んでいる姿など直視できない。声は聞いているだけで癒され耳に自然と馴染んだ。けれど一番は、その身にまとっている空気だろう。柔らかく、全てを包んでしまいそうな雰囲気。そばにいても煩わしさなどなく、むしろいるのが当たり前のように自然と馴染んだ。
なるほど、確かにこんな人がいるお店などまた来たくなるものだ。


***

おっす!オラ佐久間!………うん、突っ込んでくれる人もいないから虚しいだけだ。やめよう。

さてさて、今日も元気に喫茶店業務を頑張ってるよ。親に仕込まれた料理の腕、これだけは自信を持てるからなかなか繁盛してる。まあ規模が小さいからそこまで人はいらないんだけどね。
親がいた時は家族で経営していたけど、俺に譲ってからは引退だとかでいなくなってしまった。だから俺一人。いや、最初はアルバイトでも雇おうかなって思ってた時期もありましたよ?でもね、雇おうと応募してもほぼ来ないし、やっと希望者が来たかと思えばやっぱり耐えられませんって断られるんだよ。こんなチンケで嫌われ体質の俺がいる店になんか働きたくないってことか!?
てことで結局俺一人で切り盛りすることになった。まあなんとか回っているから問題は無いんだけどね。
切るのが面倒で伸ばしっぱなしの髪は邪魔だから後ろで適当にくくって、目つきの悪さで客に逃げられちゃたまらないので出来るだけ柔らかく見えるように心がける。

「いらっしゃいませ」

どうよこの完璧なスマイル。


__________________

ピークも過ぎ、テーブルは埋まっているがカウンターは空いているし、仕事が少し落ち着いた頃。女子高生二人組と小学生というなんともまあアンバランスな客が来た。しかし女子高生達が可愛い。あ、これは違うよ。別にセクハラとかじゃないから。うん違う違う。小学生はどちらかの兄弟とかで連れてこられた口だろう。

………しかし、注文を聞くために近づいたら仰け反られたのはショックだった。今俺は外向け用の笑みをつけてるから幾分かは柔らかくなっているはずなのに。やっぱ滲み出る嫌われ者の体質は変わらずか。それともあれか、小学生相手に台とか子供用の椅子を出さなかったから不親切なやつだと思われたのか。嫌だって仕方ねぇじゃん。そんな椅子も台もないよ。後で買っておくか。


飲み物を出せば、やっぱり彼女達は俺のことチラチラと見ながら何かを話している。クッソぉ〜、陰口は本人のいないところでやるのがマナーだぞ。
しかしそれもすぐに収まり、まさに女子高生というようにキャッキャウフフと違う話をしだす。そんな中、小学生はつまらなさそうに頼んだオレンジジュースを飲んでいた。よく見ればその視線は時々髪の長い女子高生が頼んだアイスコーヒーに向かっている。

ははぁ〜ん。なるほど分かったぞ。この子は本当はコーヒーが飲みたいんだな。だけど小さな子がカフェインを摂取するのはあまりいいとは言えないし、実際に飲みたがる子はいないだろう。だからなかなか言い出せないのか。なら、オレンジジュースはあまり好きじゃないのかな。だけどまあ気づいたところでどうしようもない。
とは思うものの、じっと物欲しそうにアイスコーヒーを眺め、自分の頼んだオレンジジュースを仕方なさそうに飲んでいる姿に思う所がない訳では無い。
冷蔵庫を確認してみて、例のものがあることを確認する。案の定作ってあったケーキを一つお皿に盛り、少年の前にだした。

「……え?」
「こちらコーヒー味のケーキです。甘さ控えめでカフェインを少量入れてみましたので苦味も演出できているかと思います。試作品なのですが、よろしければどうぞ」

少年は困惑した表情で見上げてきたが、その目には確かな期待があった。まあ実際のコーヒーを出して保護者にクレームを入れられることは嫌だからな。コーヒー味で我慢してくれ。コーヒーの苦味をケーキの中にチグハグにならないように入れるの苦労したんだからな。

「(本当はコーヒーを飲みたいのに言わずにオレンジジュースを飲むなんて)大変ですね、自分を偽るのも」
「っ!?」
「(この年頃の子なら自分の欲求は素直にいうようなものだけど、)何も言わず全て飲み込んで(保護者を困らせないようにするなんて。)まるで大人だ」
「………ぇ、」

目を見開き驚愕をあらわにする少年につい笑ってしまう。そしたら目を鋭くさせて俺を睨んでくるのだから、営業スマイルではない笑みはやっぱり怖がらせるのか。

「………お兄さん、一体何を知ってるの?」
「知ってる?(君がコーヒーを飲みたがっているってことなら)全部知っていますよ」
「!!」
「安心してください(コーヒーを飲みたがっていることは)誰にも言いませんから。(飲みたいなんて保護者に)知られたら大変ですし、(やっぱり子供がカフェインを摂取するのは)危険ですからね」

少年はじっと警戒と困惑の表情でこちらを見ているが、やがて恐る恐るといったようにフォークに手を伸ばしケーキを一口食べる。

「………お兄さん」
「なんでしょう」
「僕、江戸川コナンって言うんだ」
「(キラキラネームかよ)それはそれは。一度聞いたら忘れられない名前ですね」
「やっぱり名前も知ってんのかよ……」
「はい?」
「ううん、なんでもない……ねぇ、お兄さんの名前は?」
「佐久間明彦と申します」



「………ケーキ、美味しいよ。ありがとう」
「気に入って頂けたようで安心しました」
「あー!ガキンチョ何食べてんのよ!」
「げ、園子姉ちゃん」
「しかもマスターと二人きりで話してるし!」

しまった。女子高生に食べていることをバレてしまい少年が慌てている。しかしこれで少年に濡れ衣を被せては目覚めが悪いな。喜んでくれたとはいえ出したのは俺のお節介なのだから。

「こちらコーヒー味のケーキでして、コーヒーの苦味を取り入れたものです。新作なのですが、まだお出ししたことはなかったので試作を食べていただいていたんですよ」
「そ、そうだったんですか!」
「はい。よろしければお二人もいかがですか?」
「いいんですか!?」
「勿論です」

なんとか出来たことに一安心。これで好評なら今度は酒が入ったケーキでも作りたいな。よし、思い立ったが吉日。今日早速試作を作ってみよう。
でも確か酒なんて買ってなかったな。ケーキに合う酒ってなんだ?うーん。確か知り合いが言ってた酒はどうだ?

「(あれは確か)………シェリー」
「っ!?!」


***

ああコーヒーが飲みたい。こんな甘いジュースじゃなくてあの苦味が欲しい。だけど小学生がコーヒーを飲みたいなんて言っても蘭は許可してくれないだろうし、違和感がある。だから我慢するが、目の前にある蘭が頼んだアイスコーヒーをじっと見てしまうのは仕方がないだろう。
その時、目の前にケーキが置かれた。別に頼んでいないし、蘭たちが頼んだわけでもない。どうしたのかと置いた本人であるマスターを見れば、彼は穏やかに笑っていた。

「こちらコーヒー味のケーキです。甘さ控えめでカフェインを少量入れてみましたので苦味も演出できているかと思います。試作品なのですが、よろしければどうぞ」

その言葉に思わず期待に胸を踊らせる。このさい飲み物じゃなくてもいい。説明通りならこのケーキは甘さが少なく加えてカフェインが入っているそうじゃないか。もうなんでもいいからカフェインが欲しかった。だからお礼を言ってフォークを取ろうとしたその瞬間。

「大変ですね、自分を偽るのも」
「っ!?」
「何も言わず全て飲み込んで、まるで大人だ」
「………ぇ、」

その言葉は、蘭たちには聞こえないように小声で、でも疑問ではなく確信的な言い方。
彼を見てみれば、あの黒い瞳がまっすぐにこちらを射抜き、まるで全てを見透かされているような気分になる。口元に絶えずある笑みも、なんだか貼り付けたようなもののように見えて恐ろしかった。

この人は、俺のことを知っている……?もしかしたら組織の人間か!?


「………お兄さん、一体何を知ってるの?」
「知ってる?全部知っていますよ」
「!!」
「安心してください、誰にも言いませんから。知られたら大変ですし、危険ですからね」

面白そうに笑った姿に、つい身体が震え身構える。何を知っているのかと聞けば、全てだと答えたその真意について瞬時に頭が働くが、直後に聞こえた言葉に耳を疑った。
今、誰にも言わないと言ったのか?でもなんで、組織の人間ならなにか思惑がない限り報告するだろうし、知られたら大変?危険ってつまり、この人は組織の人間じゃないのか?
俺のことを調べられるだけの情報網または伝手があり、組織のことも知っている。だけどその危険性も同時に知っており、知られたら大変ということは自分に矛先が向けられるのが嫌だということ。なら、この人は組織に追われている人間なのか?

どんな人物で何が目的なのかは分からない。だけど、あの言い草では恐らく組織に言うことはないだろう。
だからかは知らないが、俺はこの人を信じてみようと思った。

「………シェリー」

ポツリと、本当に小さな声で聞こえた言葉に慌ててそちらを見る。
彼は、うっすらと笑ってこちらを見ていた。




自分と周りで違う認識してる時ってあるよね

((佐久間、明彦さん。彼とは敵対しちゃダメだ))
((しっかし、コーヒー好きな小学生ってのも珍しいな))

((なんとか彼と距離を詰めて仲間になってもらわないと))
((あ、今日のカプチーノなかなか結構うまく作れた))

(これからよろしくね!明彦さん!)
(はい(なんのことだ?))


((これからよろしく?つまりこれからも通ってくれるってことか。よし、常連ゲットだぜ))
((いやいや待て。そんな感じじゃなかったぞ。でも他によろしくするなんて…………つまり友達になってくれるってことか!?))
((いやいや。小学生と友達になってもらうって………やったァ!!!初めて友達ができたァ!!このさい小学生だとか知るか!!))

(こちらこそ、よろしくお願いしますね。コナン君)
(!?…うん、よろしくね(徴発的な笑み。そう簡単に引き込まれねぇってことか))


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