好き、すき、スキ
「すき、好きだ。大好きだ。この世であなたと私以外いなければいいのに」


夜も更けた頃。1人の女が屋上に立っていた。
両手を広げて眼下を見ながら、恍惚とした笑みで言葉を紡いでいく。


「好き。好き。大好き。愛してる。この世界で1番好き_______」


言葉の端で切り、後ろから迫ってきた白い布をバク転の要領で難なく躱す。
背を反らしたながら逆さまになっている襲撃してきた人物をその視界に収めると、彼女は心の底から幸せそうにさらに笑みを深めた。


「久しぶり!会いたかったわ……」


着地をして襲撃者に声をかけると、暗闇から一つの影が出てくる。
その姿が月の光に照らされると、彼女は頬を真っ赤に染めまるで恋する少女のような表情になる。いや、"恋をするような"ではなく。実際にしているのだが。
しかしそんな彼女とは対照的に、暗闇から出てきた人影は無表情に彼女に飛ばした捕縛武器を引き寄せる。


「俺も会いたかったさ。だがこんな形は望んじゃいなかった」


黄色いゴーグルをかけ、白い捕縛武器を首に巻き付けている全身真っ黒な男は淡々と言い募る。


「私はどんな形でも貴方に会えたのなら嬉しいわ」
「ヒーローを目指していたはずのお前が、なぜヴィランなんかになりやがった」


男の言葉に、女は目を細め笑みをさらに深めた。うっとりとした熱の入ったその眼は、どこか狂気じみていた。


「貴方が好きだから」


女の言葉に、ゴーグルで見えない目を驚愕に見開く。


「消太、ねぇ消太!私達は高校で出会ってからいつも一緒にいたわよね?授業も訓練も放課後も。休日だって予定さえ合えばずっと」
「………俺もだよ。お前が傍にいれば、それだけでよかった」
「私もそれだけでよかったの。貴方と出会えて貴方の傍にいられて。でもふと思った」





「どれだけ時を過ごそうが私は貴方の一番にはなれない」






それまでの狂気的な雰囲気がなくなり、静かに淡々と。どこか寂しげに語る。
それは思わず男が自分の立場も忘れて駆け寄り、抱きしめたいと思ってしまうほど儚いものだった。



「私が貴方に尽くしても貴方を愛しても貴方が私を愛してくれても。貴方は私よりも他に困っている人がいたらそちらを優先させる。なぜ?」



けれどそれは一時のこと。
すぐに女は笑みを戻し叫ぶ。



「それは貴方がヒーローだから!
その優しさも正義感も信念も!全部全部ひっくるめて私は貴方を愛してる!
だけどやっぱり耐えられなかった!
その目に私を、私だけを写してほしい!貴方の本当の一番に私はなりたかった!」



「だから、ヴィランになったのか……?」
「ええ!」


男は、相澤は理解出来なかった。

何故自分のことを愛しているからヴィランになったのか。
何故、彼女がここまで狂ってしまったのか。


「俺は、お前のことを愛していたよ」
「知ってる。でもそれだけじゃ足りなかったの」


有間理央は笑う。
ゴーグルで見えない愛しい彼の瞳には、今は自分しか写っていない。
それが心の底から嬉しくて嬉しくて堪らなかった。






好き、すき、スキ



(なら俺がお前を捕まえてやるよ)
(ほかの誰でもない、俺の手で)



(私が敵であればあるほど、私の存在は貴方に根付くの)

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