泣きたいはずなのに涙は出ない
あの時、もう少し早くついていたら。あの時、もっと腕を伸ばしていれば。あの時、もっと力があれば。
彼らは死なずにすんだかもしれないんだ。
今更言ったところでどうしようもないことはわかってるよ。だけどそれでも思わずにはいられない。
もっと。もっと。もっと。言い出したらきりがないほど後悔ばかりだ。
全員助けたかった。現実的にできないことだとしてもそれでも助けたかったんだ。だって彼らは何も悪くないだもの。死ぬはずじゃなかったのに死んでしまったんだ。助けられたはずなんだ。なのに私の力が及ばなかったせいで死んでしまった。私のせいなんだ。


「そんなことはない。お前はよくやったよ」

電気もついていない暗い部屋の中、隅の方に蹲り誰に言うわけでもなく自分を責める言葉を吐き続ける理央に、相澤はゆっくりと近づき意識的に優しい声を意識する。

「でも助けられなかった」
「いいや、お前は助けられた」
「助けられなかった人もいる」
「それ以上に助けただろ」
「もっとやりようがあった。そしたら全員助けられた」
「あの場にお前がいなければほとんど助けられなかった」

理央はヒーローだ。
影を自在に操る個性で、対ヴィランでも、救助でも活躍するオールラウンダーといってもいいヒーローだ。だからこそ他のヒーローよりも多くの場に現れる。そして、彼女はとても正義感が強いのだ。

「そんなものは結果論だ」
「そんなこと言っちまえばお前の言い分もそうだ」
「死んでしまった人の遺族たちにはそんなこと関係ないんだよ!」
「お前だからあんな大勢救えたんだ。誰もお前を責めない」

いつもは元気いっぱいで、見ているこっちが元気になるぐらい明るいやつだ。それなのに、助けられないやつがひとりでもいるとこうして自分を責め続ける。

「そんなことは問題じゃない!」

今にも泣き出しそうな表情で。でも決して泣かない。その失敗の原因は理央のものではないのにも関わらず、それでも彼女は自分だけを責める。

「大勢助ければそれでいいのか?一人や二人助けられなくても仕方が無いと、そうなのか?」

いっそのこと周りのせいにしてくれたらどれだけよかったか。彼女はいつだって独りで抱え込んで、こちらから気が付き歩み寄らないと決してその胸のうちを語らない。

「そんなことない………そんなわけない!どれだけ無理でも、どれだけ無謀でも……!」


顔を両手で覆って叫ぶ。それはまるで泣き叫んでいるようなものだ。むしろ泣いているようにしか見えない。けれど、それでも彼女は決して泣かないのだ。


「私は、全部救いとりたかったんだ……!!」





彼女の顔を胸に押し付けて、強く、強く。抱きしめる。彼女もまた、俺の背中に手を回して、まるでその存在を確かめるように強く抱きしめ返した。

なんでもかんでも一人で背負いこんで、自分で自分を追い詰める彼女に、俺の存在を思い出させたかった。彼女の拠り所に、なりたかった。






泣きたいはずなのに涙は出ない



(泣いてしまえば少しは軽くなるっていうのによ。)
(それでもお前はは決して泣かないんだ。)
(自分にはそんな資格などないのだと、泣きそうな顔で言われたって説得力はねぇんだよ。)

(せめて、傍に俺がいることを、忘れんじゃねぇ)
1/22
prev  next
ALICE+