酷い荒れ模様の天気だった。
雨は土砂降りのザアザア降りで、空は真っ暗な雲で覆われていた。
「此れは、一嵐来そうな天気だね…。」
歌仙が洗濯物を入れた籠を手に、縁側から空を見上げる。
見上げた空は、不吉な程に暗く真っ黒い雲に覆われていた。
次第に雨風も強まり、外と縁側とを仕切る雨戸を引っ張り出してきて、廊下が濡れないようにと閉め切る。
一部だけ隙間を開け、外の様子を見てみた。
ゴロゴロと空が唸り始める。
その雷に怯えた子等が、彼女の元へと集まり出す。
そんな彼等に、彼女は「大丈夫、大した事ないからね〜っ。」と宥め賺した。
心無しか、獣の類いは野生の習性か、雷が嫌いなようで。
お供もこんのすけも、布団を被って出てこなくなっていた。
鳴狐がほとほと困った様子で悄気ている。
―ピシャァアアンッ!!
落雷の音がした。
何処か近くで雷が落ちたのだろう。
ビカビカと一瞬空が光り、稲妻が走った。
「こ、怖いです〜…っ!」
『大丈夫、此処には落ちないよ。結界やら何やらの力で守られてるからね。』
またビカビカと空が光った。
また何処か近くに落ちるのだろう。
稲妻が駆けた空に稲光が走る。
遅れて一拍。
「ドォオオオオオン…ッ!!」と地を揺るがす程の巨大な雷が、近くへ落ちた。
方角からするに、裏山の方角だろうか。
離れの社で御幣を振っていた石切丸がその顔を密かに
「此れは…良くない事が起こりそうだね……。」
先の兆しを占っていたのだろう。
一人険しい顔付きで、占った結果と落雷の意味を問うていた。
「…まるで、嵐の前触れのような感じだねぇ…。」
ポツリ、縁側近くで茶を飲み、空の様子を眺めていたにっかりがそう呟いた。
―雷が落ち着き、雨も少し弱まった頃。
静かに離れから戻ってきた石切丸が、彼女の元へとやって来た。
「主…ちょっと良いかな?」
『どうした?石切丸…。』
あまり良い事では無さそうな空気を察してか、真面目な空気で振り向いた。
「先程まで、離れの社で少し先の未来を占っていたのだけれど…あまり良くない結果が出たよ。」
『良くない結果とは…?』
「……大凶…。本来なら、先の未来の吉兆を占うものなのだけどね。今しがた占った結果で出たものは、大凶。…近い内、この本丸にとってあまり良くない事が起こるかもしれないよ。其れは、主にとっても良くない、恐れた事が起こるかもしれないという兆しだ。気を付けておいた方が良いかもしれない。出来れば、本丸の外へ出る時は護符を身に付ける事。そうすれば、少なからず君の事を護ってくれるからね。」
『…分かった。肝に銘じて気を付けておくとしよう。皆にも、其れとなく伝えておくよ。有難う。』
「出来れば、この占いが外れてくれると良いのだけどね…。」
空は、まだ唸りを上げていた。
―翌日、修行も兼ねて裏山へ登った山伏が昨日落雷のあった箇所を見に行ったところ…。
その場所は、見事に直撃したような跡で真っ黒に焼け焦げていた。
その様子に、山伏もまた何かを感じ取ったのか、後ろ背に空を見上げて呟いた。
「此れは…何やら良くない事が起こるやもしれぬなぁ…。」
顰められた眉間の皺は深く険しいものだった。
執筆日:2021.04.24