欲しいもの

「…なにこれ」

少し呆れるようにして口から言葉が零れる。全くだと言うようにサンジが煙草を吸いながら同調すると、突然感じる映像。急いで、踵を返した。どうした?と問うサンジの声に脇目もふらず、ゼフの元へと足を走らせる。

「…危ない」

それはたまに見える突発的なもので、さきほど見えたのは傷ついたゼフと荒れたバラティエーーー何かの冗談であればいいのだが、こういう時の届くイメージは不気味ながら必ず事を起こすもので、焦りは一向に募る。

「…、っ」

自分の居場所がまた消えてしまう。そんなことだけはどうしても避けたかった。





「大丈夫だシナ」

ゼフは、全部分かってしまっているように諭した。焦りばかりが先行するというのに、こうもあっさりと言われたら何を返せばいいのか。心配するな、というように笑うゼフは、まるであの日1人だった自分を受け入れた時のようだと、断片的に思い出した記憶はもう3年も前の話であった。

「全ては、サンジ次第だ」
「…そう」
「あとあの小僧だな」
「ルフィ?」
「ああ。…お前は信じて待っとけ」
「、知らないわよ」
「俺はもう、充分なんだよ」

力強い声。不意に涙が出そうになる。男の言葉は深みを持って、それでもどこかに寂しさを感じてしまう。ここは、もう推し量らなければならないのだろうか。ミホークが来て、クリークが来て、もうすぐそこでサンジとバラティエはどこかに行ってしまいそうだった。

「…不器用なのね」
「へっなんとでもいいやがれ、」

突き進む先に変化が必要ならば、どうしてこんなに苦しいのだろう。ゼフの片足はサンジの足枷ではなくとも、そこに詰まった愛をサンジはもう許さなければならない。





「…っ!」

ギンから感じる優しさが、サンジの不器用なゼフへの思いと重なって、案の定胸は苦しくなっていた。男はなんでこうもめんどくさいのだろうと熟く思う。クリークを倒すルフィを、今は見守るしか残された術はない。サンジはみっともない姿は見られたくないだろうから、もう手当には行かなかった。震える黒い後ろ姿を見つめながら、彼の気持ちが透き通るように伝わるのは、きっと自分だけでなくゼフも一緒なのだろう。

「…勝った、」

ルフィは、何を持っているのか。サンジの心を掴んで、ここにいる大勢を惹き付けて、彼は本当に海賊王になるのではないか。ーーーざわざわとした胸騒ぎの元凶をやっと理解した。この、男である。違うと本能的に感じたそれは、どこの海賊団の船長ともちがう感覚だった。

「おい、ぼーっと座り込んでないでさっさと飛び込め。あいつは…悪魔の実の能力者は全員カナヅチになっちまうんだ」
「カナヅチ…!? 何でもっと早く言ってくれねェんだ!」
「サンジ…」

一目散に海に飛び込んだサンジ。もう、サンジは進むのだろう。脳裏に浮かぶ楽しかった過去は表情をどこか寂しげにさせて、ゼフは思わず目を細める。

「そんな面すんな」
「ゼフ…ごめんなさい迂闊だったわ」
「そんな面…綺麗な顔が台無しだ、」

くさい台詞はサンジと重なって、やっぱり二人は同じだと当たり前なことを思う。

「ーーーお前もだぞ、シナ」

進まなければ。生きている限り、私も踏みとどまるべきではないのだ。












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