そのあとなんとか教室に戻ってきたわたしは、お弁当を食べる気にもなれず席に着いてぼうっとしていた。

友達が駆け寄ってきて、なまえ見たわよ!なんて興奮気味に話しかけてきたが、友だちはわたしの顔を見るとギョッとした。

「なまえ、大丈夫?なんで泣いてるの?」
「え?」

言われるまで気がつかなかった。あれ、と思い必死にとめようとするが、次々に溢れてくる涙は止まることを知らない。

「…はい。」

声がする方を見ると、ハンカチを持った研磨がいた。わたしが友達といるときに研磨が話しかけてくることはゼロに等しいのに、こうやって近づいてくるなんて珍しい。友達も驚いているだろう。
だが今はそんなこと気にしてられない。

「けんま、どうしよう、わたしっ、」

差し出されたハンカチを受け取り、混乱している頭で先ほどの出来事を思い出す。先ほどとは打って変わり子供のように泣きじゃくり、研磨にすがりつく。

「…ゆっくりでいいよ」

学校イチのイケメンに盛大な告白をされていた女子生徒が、教室で泣きながら、普段は大人しく目立たない男子生徒に慰めてもらっている。しかも静かに涙していた彼女が、研磨が現れたことにより、これが本来の姿だと言わんばかりに泣きじゃくっている光景にクラスメイト達は驚きを隠せなかった。


なまえと研磨は教室で話すとしても、部員同士の業務連絡程度だ。なまえは明るく友達が多い一方、研磨はひとりでいることが多いため、誰も2人が幼馴染であることは知らない。


ただのクラスメイトだと思っていた彼らのその異様な関係を、クラスメイト達は静かに見守るしかなかった。

「中庭でっ、こ、告白、されてっ…でも周りに、人、が多くて、どうしていいかわからなくて、考えてたら急にっ、抱きしめられて、そしたら、そしたら、」

ううう…と号泣するなまえ。

「…クロがいたの?」

こくりと頷くその様子を見て、今度は研磨が話し始めた。

「…なまえは、我慢しすぎ。バレー部が大事って、ありがたいことだけど…。自分のことも大事にしなよ。」

教室でこんなにスラスラと自分の意見を言う研磨ははじめてだ。

「わたし、我慢なんて、してない。」
「してる。きっと俺以外誰も気付いてない。…それって、無理して隠してるってことでしょ」

ほんとにこの幼馴染に隠し事はできないなあ。なんでもお見通しだ。

わたしがクロが好きだとチームメイトにバレたら、バレーに集中できなくなるかもしれない。特に音駒はチームワークのチームだ。ただのマネージャーであるわたしが乱すわけにはいかない。

「…それにうち、別に部内恋愛禁止じゃないケド」

研磨の言葉にバッと顔を上げる。急に顔を上げたからびっくりしたのか研磨は困ったように目をそらした。





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