第06話 『ココロの痛み』



盗人みたいなことはやりたくない。

でも、真実は知りたいから…



真っ暗な執務室。
太陽はすでに眠り、月が輝かしくでている真夜中…

はい、ただいま名前、誰もいなくなった夜の執務室でお宝探してます☆

…という冗談はさておき。


「見つからないなぁ…」


探しているのはあの日の事件の報告書。

確かカツラギ大佐がアヤナミさんに渡していたから、きっとアヤナミさんの机にあるはず!

え?
何気に見てますね、って??

そりゃもちろん!
視力だけはいいんで!

そういう問題じゃない?
いやいや、そういう問題にしておきましょうよ。


ガサガサと書類を漁る。
灯りをつけちゃうと誰かいる、とバレちゃうので頼りにしているのは月の灯りと自分の勘。


でも全く見つからない書類。
もしかしてもうお偉方に提出しちゃったのかなぁ?
早くしないと見つかっちゃうかも知んない。


「特に…アヤナミさん、とか??」


小さく呟けば、「私の机に何か用事か。」と低い声が扉の方から聞こえた。
身も震え上がるくらい怒気が交じっている。


「…。」


噂をすれば影が差すってホントだと思う!

私は、一度アヤナミさんと目が合ったにも関わらず、机の下に潜り込んで頭を抱えた。


ばれてない
ばれてない
ばれてない!!


「貴様は馬鹿か。」


現実逃避している中、急に襟を掴まれ引っ張り出された。


「はぁい、馬鹿でーすぅ…。うぅ…なんでこんな時間に起きてるんですか!いい子はもう寝てる時間ですよ!」

「生憎だが、私はいい子ではない。」


知ってるけども!
ムチで人を叩く人がいい子なはずがない!!


「気配も消さずにこんな真似をする貴様が悪い。」


気配ですと?!
どこの忍者だ!!


「貴様の探し物は、コレか?」


一枚の書類が私の前に広げられた。

奴隷死亡に関する報告書。


「…どうして…わかったんですか?」


私が、この書類を捜していたと。


「カツラギが私にこの書類を渡す際、こちらを気にしていたのに気付いたまでだ。」


あぁ…
私がよく見ていた以上に、
アヤナミさんはもっと見ていたんですね。
一枚も二枚も上手だ、アヤナミさんは。


「よく、見せてもらえませんか?」

「構わない。が、理由を話してもらおう。」


ちっ。
やっぱそうきたか。


「どうしても、話さなくちゃダメですか?」


泣いちゃうかもですよ?!

ま、見せてくれなくても暴れて泣くかもだけど。


「…」


紫の瞳が何も言わずにただ、ジッと私を見つめる。



「…あーはいはい!わかりました!あの日道に迷った私は一人の奴隷の少女と出会いました。あまりにも可哀想だったので私が育ててあげる気で「これからよろしく」って抱きしめてたら、後ろからその女の子の主人に刺されたの。刀が……女の子の…心臓を、貫いたの…。」


最初は強気に話していた声も、どんどん小さくなってきた。


「そのとき一緒についた傷が、右腕の傷。」


そう、それで頭に血が上った。


「あの男……何度も蹴るの。ルミナの体、何回も、何回も。……もう、死んでるのに。」


涙が出そうになって歯を食いしばる。
まばたきしてしまえば、今にも落ちてしまいそうだ。


「…気がついたら、男が…血だらけだった。」


アヤナミさんはただ、私の話しを聞く。
それに少しだけ救われた気がした。


「このまま殺そうって思ったとき…ポケットから鏡が落ちて、拾った瞬間、元の世界にいたの。多分、私がトリップできるのはこの鏡のおかげ。この鏡ね、お母さんの形見なの。ついこの前両親死んじゃって、命の重さ、わかってるはず、な…のに……死んじゃえばいいって……こ、こわかった…」

人の命を簡単に殺そうとする自分も、簡単に死んでゆく命も。

溜まっていた涙が止め処なく溢れて、私は震える手で顔を覆った。


「こっちの世界に戻るの…怖かった。それに、後悔、してるの。殺そうとしたこと。でもっ、っ、あの男が生きてるなら、殺したいって思う。きっと居場所を知ったらっ殺しに…行ってしまう。」


怖い。
こんな自分が。


「教えて…あの男、生きて…るの?」


顔から両手を離して紫の瞳を見つめれば、ぎこちなく抱きしめられた。


「…生きている。」


そっか…


「罪は、ちゃんと償うから……。居場所を、教えてほしい。」


アヤナミさんの服に顔を埋めながら小さくそう呟けば、抱きしめる力が強まった。


「教えるわけにはいかない。お前に殺されては困るからな。」


悔しくて、
悲しくて、
いっそこんな自分に憐れみを感じる。

アヤナミさんの背中に腕を回し、縋りつく。
止まらない涙がアヤナミさんの服を濡らしていった。


「…少し、痩せたか。」


アヤナミさんの大きな手が私の髪を梳く。


「何も、食べれなくて…」

「…そうか。明日からはしっかり食べる事だ。」

「グリンピースも?」

「愚問だな。」

「ですよね。」

「そろそろ室まで送ろう。」

「……アヤナミさん、涙が……止まりません。お願いです…」


今晩だけ抱きしめていて下さい……
明日からは、私らしく笑えるようになるために…

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