第07話 『一晩のアヤマチ』
目を覚ませば知らない天井が見えた。
窓の位置も違えば、ベットの大きさも置きかたも違う。
「…ねむ。」
まだ眠たい目を擦りながら上体を起こした。
「起きたか。」
着替えが済んだのか、白い手袋をはめているアヤナミさんがまだ半分起きていない私に声をかけてきた。
あれ??
なんでアヤナミさんが??っていうか、ここドコ??
……。
あ〜……思い出した。
さて問題です!
どうして私はアヤナミさんの部屋で眠っていたのでしょーか?
@涙が止まらなくてしがみ付いて泣いたから
A私が大泣きして一晩一緒にいて欲しいと言ったから
B一人になりたくなくて一緒にベッドへ…
答え全部☆
うっわーい、やっちまったぜ言っちまったぜ!
『今晩だけ抱きしめていて下さい……』
誰っすか、コレ↑言ったの。
え、私?
いーやーぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!!
記憶から抹消すべきだよコレは!!っていうかさー!
この題名なんかおかしくない?
『一晩のアヤマチ』ってなにさ!!
これじゃまるで私がアヤナミさんとピ―――したみたいじゃん!
してないから!
断じてそんなヤらしいことしてないから!
ちょっと頭撫でてもらっただけだもん!
頼むから訂正してくれ!!
へ?ムリ??
なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!
せめて『一晩のアヤマチ?』ぐらいにしとけって!!
まぁ、アヤナミさんだったから何も無かったけど、コレがあのエロ少佐だったら即ヤられてんな、私。
てか妊娠するよ。
絶対。
謝んないと、だよね。
一緒に寝たとはいえベッド借りたんだし…
っていうか…この部屋、物ほとんどないなー
キレイだし。
キョロキョロしていると、「私は先に行く。」と、アヤナミさんは一人でさっさと出て行ってしまった。
謝る事はおろか、お礼すら言えなかった…
私が寝るまで抱きしめていてくれたのに。
2人っきりになったときにでも言うか!!
とりあえずスッキリした顔で、私は着替えるために自室へと急いだ。
***
「ア〜ヤたん♪おはよー。」
いつもより遅めに執務室に入ってきたアヤナミ。
そしてそれを待ってましたと言わんばかりにニマニマしているヒュウガ。
まるで悪巧みを考えている子供のような顔だ。(サングラスさえなければ。)
「どうだった?どうだった??」
主語のない話し方もそこらへんの幼稚園児と一緒だ。
「あだ名たん可愛かった??」
アヤナミが定位置に座ると、ヒュウガはイスを反対に座り、背もたれに両腕を置いた。
「何の話だ。」
「しらばっくれちゃって☆あだ名たんとヤったんでしょ?」
その一言にコナツが顔を真っ赤にして吹き出した。
ハルセ、クロユリ、カツラギは自然にペンを動かす手が止まる。
「何の話だと言っている。」
「もーヤだな〜アヤたん♪オレ昨日の夜中見ちゃったもんね〜。アヤたんとあだ名たんが抱きしめあってるの♪♪」
「覗きとはいい趣味だなヒュウガ。」
「それほどでも☆」
「暇なら仕事をしろ。」
一枚の書類をヒュウガに渡す。
「…ふぅん。殺すんだ。」
「意見があるのなら聞こう。」
「べっつに。ないけど…処刑ねぇ…奴隷殺したくらいじゃ処刑になんないでしょ。どうやって処刑にまで持っていくつもりなの?」
奴隷は主人に絶対。権利も主人にある。生かすも殺すも主人次第。
「不正での奴隷売買、大麻所持、一般市民を強制奴隷にした上での殺人。これで充分だ。」
「それ、全部アヤたんが勝手につくった罪?」
「死者はしゃべらない。余計なことをしゃべる前に、殺せ。」
「わ〜えらくあだ名たんがお気に入りみたいだねアヤたん。オレ妬いちゃう!」
ビシィ!!
「そ、その愛のムチは…必要ないかも!」
「一秒でも早く行け。」
ちぇーっと口を尖らせるヒュウガ。
一度は後ろを向いて一歩踏み出そうとしたものの、何かを思い出したのかまたくるりとアヤナミのほうを振り向いた。
「アヤたん、あと一つだけ。「おっはよーございます!!」あだ名たんとエッチしたんだよね?」
……
「……オ、オツカレサマデシタ……」
顔を背けて扉を閉める名前をヒュウガが制した。
バッドタイミングもいいところだ。
「あぁ!待ってあだ名たん!今いなくなられるとオレ、アヤたんに殺される!!」
「悪いけど殺されて。」
バシッッッッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
***
「一つだけ言わせて。」
床に正座しているヒュウガはあちこちボロボロで、横でコナツが薬を塗っている。
私は仁王立ちしながら、ヒュウガを見下ろした。
「あのね、私…アヤナミさんと……」
チラッとコナツと目線があい、そして逸らされた……
ゴメン、ゴメンコナツ。
悪いんだけどあからさまに赤い顔して目と顔を背けるのやめてくれるかな?
なんだよ、居たたまれないじゃん私!!
「コナツも聞いて!!私別にアヤナミさんとそ、そーいうことしてないから。」
「えー!!じゃぁアヤたん、あだ名たんと一晩一緒のベッドで寝て何もしなかったの?!」
オレだったら理性持たないよ!と威張るバカ。じゃなかったヒュウガ。
だろうね。
わかってるよ。
ヒュウガの理性なんてヒビが入ったガラスより脆いってことぐらい。
ほんっと、つくづくアヤナミさんで良かったと思う。
「本当に、何もなかったんです…よね?」
「おうよ!」
ホッとしたようなコナツの笑顔。
カワゆす!
この子カワゆす!!
「良かった…。もし、そういうことになっていたら、どんな顔して名前さんのこと見たらいいのかわからなかったから…」
あ、そっち?
私のこと好きだからとかじゃなくて?
おかしいな〜。
嘘でもいいから「名前さんのこと好きだから」って言って!!
Likeで全然いいからさ!!
「コナツ初心だねぇ。」
「少佐は黙っていてください。」
うんうん、ホント初心だよこの子。
でもね、天然の言葉ってたまにココロに刺さるのよ!!
「ねぇねぇ名前。」
ため息を吐いて頭を抱えていると、さっきまでイスに座っていたはずのクロユリが私の傍まで来ていた。
「今度はボクと寝てくれる??」
はい!よろこんで!!
「そういえば、あだ名たんの軍服姿初めてみた!似合ってるねぇ〜。」
そうなんです!
初☆軍服なんです、私。
まだしっくりこないけど。
「スカートがよかったなぁ。」
「どっちでもいいって言われたんですけど、こっちの方がまだ動きやすいから。」
スカートだったらパンツ見えてないかハラハラで疲れちゃうんだよ。
それにどっかの誰かさんがスカート捲りとかしてきそうだしね。
「…スカート捲りしたかったのにぃ〜。」
ほーらね☆
どこの小学生だよ!!
「残念でした。」
「切ってもいい??ミニスカートにしてあげるけど!」
「絶対すんなよ!!」
もししたら…
その時はアヤナミさんのムチ借りてぶってやる!!
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