第08話 『心地良い場所』



おっす!オラ名前!!
最近の将来の夢はスーパーサイヤ人になることだっちゃ☆


いや〜なんでしょうね、このハイテンション!!
やっほう!

……まぁ、ぶっちゃけて言えば、あれだよ。

男の人と一晩一緒に寝てキャーキャー言うほど子供じゃないけど、
今までどおり普通に接する事ができるかといえば…できねぇんだよ!!

目ぇ合わせらんないんだよ!
だからお礼すらいえないままだよ!!
悪いか!
ん?逆ギレはダメ??
だって仕方ないじゃーん。
私若者だもん!!
逆ギレ、開き直りすっげー得意よ。


「名前さん?」


はっ!!


「ボーっとして珍しいですね。」

「コナツぅ〜。うん、ちょっと交信してた。」

「誰とですか?!」


えへへ〜それはコナツでも言えないよぉ。
でも、


「ちゅーしてくれたら教えてあげてもいいよ。」

「なっ!!なななななに言ってるんですか!!」


可愛いぞぅKONATU!!


「もう!名前さん、少佐みたいですよ。」


OH NO!!


「それだけはご勘弁くだせぇ、お代官様。」


あ、違った、お代官はあそこに座ってる……あ、あれ??
確かにさっきまで座ってたのに…

バシィィィィッ


「ひぃぃぃぃぃ!!」


いつの間に背後に!!

あぁ…怖くて後ろが振り返れない…
プラス、この前の一晩を思い出して恥ずかしくて振り返れない!


「…名前。」

「なんでしょーか!!」

「私はこちらにいるのだが…貴様は私に背を向けて話す気か。」

「そんなことは…」


こうなりゃ意地だ。
私は床に正座をしてそのまま後ろを振り向いた。
だけど、アヤナミさんの顔を見ることが出来ず、靴しか見てないチキンなわ・た・し。
頭上からため息が聞こえたかと思えば、頭に一枚の髪が乗せられた。


「これが今回の報告書だ。」


それだけを言うと、アヤナミさんは執務室を出ていった。
頭に乗せられたままの書類を見てみる。
なんとなく、予想はできていたけど…

不正での奴隷売買、並びに一般市民を強制奴隷にした上での殺人。
及び大麻所持。


「死刑執行済み……か。」


あんな男でも、あっさりと死ぬんだね。




***




「アヤたん。」


執務室を出ると、ヒュウガが飴を舐めながらこちらに向かってきた。


「済んだか?」

「もちろん。ちゃーんと殺してきたよ。」

「そうか。」

「あだ名たんにはあの罪がでっち上げだって言わないの?」

「私もお前も、この真実は墓場まで持っていく。」

「りょーかい。」




***




「ただいまーあだ名たん。」


私の後ろから抱き着いてくるのは言わずとも知れてるヒュウガ少佐。
ちょっと仕事しにどこかに行っていたのに、もう戻ってきたなんて…


「永遠に帰ってこなければいいのに。」


せっかくクロユリとコナツと話してたのに…私の癒しの時間を奪いやがって!!
本音がポロリと零れる。


「ひどい!!こんなにもあだ名たんの愛で溢れてるのに!」

「ごめんなさーい。私素直すぎて思ったこと直球に言っちゃうんで。そこんとこよろしく!」


よろしくしたくない…と、めそめそ嘘泣きをし始められる。
あぁ、めんどくせぇ。


「名前って…ヒュウガのこと好きなの?」


クロユリのビックリ発言。
どこをどう見たらそうなるのか、教えてもらえます??


「え、ホント?!オレも…」

「いや、好きじゃないし。」


私の一言で満面の笑顔が一気に泣き崩れた。
サングラスずれまくってますよぉ。


「だいたいね、クロユリ。ヒュウガはコナツとデキてるの。そんなお邪魔はいたしませぬよ。」


………


「ごごごごごめんあだ名たん。オレ今さすがに一瞬、思考回路ショートしたんだけど。っていうか、コナツなんて息止まってるよ!!」

「ちゅーしたら生き返るよ!」


きっとね。


「えぇ?!オレ男とはちょっと…。」

「じゃぁクロユリする?」

「ヤだ!」


仕方ないなぁ…
じゃぁ私が…


「い、生き返るも何も死んでませんから!」


ちっ。
生き返りやがった。


「どうしてボクと少佐が恋人同士になるんですか?!」

「え?だって仲いいでしょ?ここでかけ算…おっと失礼。ここでカップリングしなきゃどこでするのよ。」

「止めて下さい!!」


あんまりにも青ざめた顔でコナツが否定するのがちょっと面白かったけど、本気で嫌そうなので、お遊びはここまでにすることにする。


「はいはい、じょーだんよ、冗談。もう、ギャグが通じないなー。」

「笑えないからです!」


コナツは硬いなぁ〜。
ヒュウガなんてもうさっきからコナツが必死に否定してるのを見て面白そうに笑ってるのに。
ま、それもそれでどうかと思うけどね☆


「しゃべりすぎたぁ。」


今何時かと、なんとなく時計を見れば時間はあっという間に過ぎていた。


……やっべぇ!(コナツで)遊んでる暇はありませんことよ!
明日は珍しく2連休貰ったから、今日のうちにできることはしなくては!!
そして思いっきり遊ぶんだい!

そのためにはまず、アヤナミさんにこの前の晩のお礼を……
あー、これは精神的にダメージくらいそうだから、最後でいっか。
とりあえず仕事しよーっと。




***




「ふぃ。」


右手で額の汗を青春してるスポーツマンのように拭う。
ピカピカの机。
塵一つ無い床。
それらを見れば、ついヘラッと頬の筋肉が緩む。


「キレイになりましたね。」

「ハルセさん!はい。すっごく満足感に浸ってます!」

「そうですか。何事にも一生懸命で、名前さんのそういうところ、素敵だと思いますよ。」

「ホントですか?!ありがとうございます!ハルセさんの笑顔とか素直に褒めてくれるところとか私、素敵だと思います!!」


褒められると嬉しい気持ちは誰だって一緒だ。
満足感が幸福感に変わる魔法の瞬間だから。


「あれ、そういえばみんなは…??」


掃除に夢中で気がつかなかった。
今執務室にはアヤナミさんとハルセさん、そして私の3人だけだ。

やけに静かだと思った。(某少佐がいないから。)


「もう上がられましたよ。」


そっか、コナツ…今日は定時で上がれたんだね!!
よかったじゃん!!


「そっか、ハルセさんももう??」

「えぇ、この書類を提出してから私も上がらせていただきます。」


ん??
てことは…アヤナミさんと2人きり??

無理じゃぁぁぁぁぁ!!


「私が!私が…その書類出してきましょうか?」

「いえ。これは自分の仕事ですので大丈夫です。では、お疲れ様でした。」

「オツカレ、サマデシタ……」


いかないで!
2人にしないで!!
気まずいから!!

無情にも閉まった扉。
2人きり。

わ、私も掃除終わったし…上がろっかな。


………ってダメじゃん私!
まだお礼言ってないもん!!
チャンスだよ!
今がチャンスだよ自分!!

ととと、とりあえず…コーヒーでも淹れて…


「名前。」

「ふぁい!」


やべ、噛んじった。


「終わったのならもう上がれ。」


それが終わってないんですよー!
お礼がね!
明日から2日続けて休みだから今日言わないと時間経ちすぎだし…

えぇい!女は度胸だ!!

動きたくないと拒絶反応を起こしている足を必死に動かして、アヤナミさんの机の前まで歩く。
アヤナミさんはそんな私に気付いたのか、書類から目を離して顔を上げた。
アヤナミさんの視線と私の視線が交じり合い、なんだか気恥ずかしい気持ちになる。


「っ……一昨日の夜は慰めてくださってありがとうございま゛っ?!」


ゴンッ!!


目を合わせながらお礼を言うのは恥ずかしいからと、頭を下げながら言えば、勢いが良かったのか…
額を思いっきりアヤナミさんの机で打った。


「い゛った〜〜」


さすがにその体勢のままは恥ずかしかったので額を押さえて顔を上げる。

なんっつー古いことやってんのよ私…


「馬鹿だな。」


小さな一言が胸に刺さる。


「ば、馬鹿だもん!仕方ないじゃん、お礼言わなきゃって必死にお礼言ったんだから!」


必殺、逆ギレ。


「そんな言葉望んでない〜。労わって欲しい!」


もう痛みで自分が何言ってるのかわけがわからない。


「……大丈夫か。」


それがアヤナミさんなりの労わりの言葉なんだろう。
ぎこちなく言うアヤナミさんが面白くて、笑ってしまった。


「だ、だいじょうぶ。ごめんなさい、言い過ぎちゃったですね。気にしました?」

「いや…」

「よかった。私、一昨日のお礼を言いたかったんです。アヤナミさんのおかげで立ち直れました。ありがとうございました。」


私がふんわりと微笑めば、アヤナミさんも少し笑った気がした。


「気を遣わせたようだな。あの挙動不審ではわかりやすい。」

「うぅ…バレてたんですね…」

「あたりまえだ。」


アヤナミさんがイスから腰を上げた。


「終わったんですか?」

「あぁ。」

「じゃ一緒にあがりましょうか。」


急いで執務室の電気を消して扉を閉め、一緒に自室へ向けて歩き出す。


「今日はちょっといつもより遅くなっちゃいましたね。」

「そうだな。」

「外、もう真っ暗ですよ。」

「あぁ。」

「……。」

あんまり会話が持たない。
そう思った瞬間、アヤナミさんが口を開いた。


「明日は休みだったな。」

「は、はい!」

「ゆっくりするといい。」


あっという間に私の自室についてしまった。
ちょっと名残惜しい気もしたけど、自室の扉を開ける。


「お疲れ様でした、アヤナミさん。」

「あぁ。」

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」


低く響く声の余韻を感じながら、私は扉を閉めた。

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