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「えっと、…ナマエ、おいで。」


コナツさん、『ナマエ』って言うのを躊躇ってる感じがたまらなく可愛いです。
ヒュウガ少佐が勝手に呼んだだけだからそれに倣わなくてもいいのにと思うけれど、ヒュウガ様様だ。

私はさっきから悶え死にそうでたまりません。

しかもヒュウガ少佐が「あだ名たんが見つかるまでナマエはコナツが面倒みてあげたら?絶対あだ名たん喜ぶし助かるよ。」と言ってくれたおかげで私は今日からコナツさんの自室でお世話になることになりました。

ナマエとかあだ名たんとかややこしいったらありゃしないけれど。

夕食もしっかりといただいて、二人っきり…いや、一人と一匹の食卓も悪くないものでした。


でも猫になって数時間、コナツさんの部屋に来て1時間。
今の私は究極の場面に立たされています。


「さ、一緒にお風呂入ろっか。」


さすがに…、
さすがにそれは無理ですっっ!

私の体を洗われるのも恥ずかしくて無理ですが、何よりコナツさんのは、は、裸とかっ、そんなっ、そんなっっ!!


とか思いながらも足はお風呂場の方へ勝手に歩く。
これでは私が痴女みたいじゃないか!と思うけれど、大丈夫、痴猫なだけだ。
バレなければ問題ない。
全くない。

いや、でも乙女心が恥ずかしがってる!

上とか見上げちゃだめだよね。
筋肉とかついてるんだろうか。
いや、彼もブラックホークの一員だ、ついてるだろう。


あぁ、猫でも鼻血って出るんだろうか…


悶々と考えながら浴室に入ると、コナツさんは私の予想を裏切って…ごほん、予想通りに服を着たまま浴室に来ると、私を洗い始めた。

少し残念な気もしたが、これが人間の姿だったら絶対考えられないだろう光景にやはり満足する。
水は何だかイヤだし、洗ってくるコナツさんの手は少しくすぐったいけれど、気持ちいいような…不思議な感覚にモジモジしてしまう。


「ジッとしてて。」


言われた通りにピシッと姿勢を正すと、「いい子いい子。」と褒められたので、私は嬉しくてまたふにゃりと力を抜いた。


「何かナマエって人間の言葉がわかってるみたいだね。…もしかして本当にわかるの?」


真剣に訪ねてくるコナツさんに、私は素直に頷いてみせた。


「頭がいいんだね。」


何だか会話が成り立っているみたいで私は嬉しくなってその場でジタバタとして、そのまま石鹸の泡で滑った。





「にゃぁ〜」


私がお風呂から上がると、今度はコナツさんがお風呂に入った。
ソファの上に丸くなって、浴室から聞こえるシャワーの音に敏感にも反応してしまう。

何だかエロチックだ、と思ってしまうのは致し方ないことだ。


それよりお風呂に入れて、さっぱりとできたせいかウトウトと眠たくなってきた。
眠気を吹き飛ばそうと欠伸をしてもなかなか睡魔は去ってくれない。

いつまで猫の姿でいれるのかわからないから、もうちょっと堪能していたいなぁと思ったけれど、それは人間の姿に戻れる前提の話しだ。
そんな確証などどこにもなくて、急に不安になった。

そういえばあのニボシをあげた猫にも会いに行けなけなかったと気付き、明日は絶対に会いに行こうと心に決めたその時、コナツさんが浴室から出てきた。

ハチミツ色の髪がいつもより艶めき、かっこよさ100倍増しだ。
お風呂上りマジックはどうしてこうもかっこよくみせるのだろうか。


「まだ寝てないの?眠くない?あ、猫って夜型だったけ。」


確かそうだったけれど、今日は何だかはしゃぎすぎて疲れているのかものすごく眠たい。
一日に色んなことがこうも詰め込まれていると体力はカケラも残らないのか。

私は眠たいことを知らせようと、首を横に振って欠伸をした。


「ナマエは昼型??」


コナツさんは笑って、ソファに座っている私に小さなブランケットをかけてくれた。


「おやすみ、ナマエ。」

「にゃぁ。」


おやすみなさい、と平然と返すが、内心悶え死にそうだ。
何だこの甘い恋人同士みたいな感じ!

やばいやばい。
眠気なんて吹き飛んじゃった!


コナツさんは私に背を向けると、ベッドに横になって電気を消した。

いつもだったら見えない暗闇でも、猫目だからかしっかりと見える。
私はスルリとソファから折り、コナツさんのベッドにジャンプして飛び乗ると、もぞもぞと鼻をコナツさんの肩に押し付けた。


「どうしたの?」

「にゃぁ。」


急に猫になってしまって、そして急に暗くなって。
でも暗闇の中がしっかり見えることに何だか底しれぬ恐怖を感じた。


もう、人間には戻れなくなるんじゃないかと思考がマイナスに走る。


「にゃぁ。」


もう一度鳴くと、コナツさんが布団を軽く上げてくれたので、私はそこに潜りこむとコナツさんの隣で丸くなった。


「眠れそう?」

「にゃ。」


コナツさんの匂い、コナツさんの温もり。

そして頭を数回撫でたコナツさんの手にひたすら安心感を覚えた私は、深い眠りへと落ちていった。


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