この出会いはグウゼンだろうか?

にゃー

「あ、あの猫かも!」
依頼者のおばあちゃんから借りた写真と、その猫を見比べる。
お尻のところに茶色いハートがあって、尻尾は長めの白猫!
ふむふむ。
「間違いない!あの猫だ!」
よーし!珀空ちゃんがぱぱっと捕まえちゃうぞ!

ふにゃー

欠伸をしているその猫にゆっくりゆっくり近づく。リラックスして積まれた木箱の上で丸まるそれは今にも寝そうだ。
よし!今がチャンス!
と心の中で呟いて手を伸ばした。

サッ

「なっ!?」
突然、今までトローンとしていた目を鋭くして逃げ出す白猫。
どうやら私のことに気付いたらしい。
「あー!逃げちゃう!まってー!」
えーっと、名前なんだっけ!
ゴン、ごんた…?じゃなくて、あ!
「ゴンザレス!!」
だった気がする。

猛スピードで駆けていく白猫を見逃さないように、追いかける。
早い!早いよ!ゴンザレス……。

「おっ、なんだ?この猫」
追いかけていればとある公園へと入り込み、ベンチに腰掛けているお兄さんの膝の上に乗った。
お兄さんはいきなりのことにびっくりしたようだが、猫は苦手ではないようでアゴのところを撫でている。
「あー!そこのお兄さん!」
その光景を目撃した私は、お兄さんに呼び掛ける。
「ん?お兄さんって俺?」
「そうです!その猫捕まえてくださいって、あー!」
お兄さんに撫でられて嬉しそうにしていた猫は、満足したのかそれとも私に気づいたのかまたまた逃げ出す。
「ありゃりゃ、逃げちゃった」
「はぁ、はぁ…。なかなか捕まらないなぁ」
乱れる息を整えて呟く。
「手伝おうか」
「いえ、私の仕事ですし」
ニコリと優しく笑うお兄さんの言葉に首を横に振りつつ、断る。

「いや、仕事が終わって丁度暇してたんだ」
「嫌でも…」
「人の行為は素直に受け取っておけよ!あ、俺は夜久な!」
「ヤクさん。あ、私は珀空です!えっとよろしくお願いします!」
「おう!」


◇◆◇



にゃふっ

「よし、捕まえたぞ!珀空!」
「わぁ、夜久さん!ありがとうございます」

あれからどれ位の時間がたったか分からないが、やっとのことでゴンザレスを捕まえた。

「本当にありがとうございます。夜久さんが居なかったら捕まらなかったかもですし。」
「どういたしまして。あ、そういえば聞き忘れてたけど、なんでその猫捕まえてたんだ?」
珀空の猫じゃないよね?と夜久さんは続ける。
「えっと、これは依頼で…」
「えっ、ギルド入ってるの?」
「いえ、入ってないです。私は何でも屋っていうのをしてて、その依頼で猫を捕まえてほしいと頼まれたんです。」

私の言葉を聞いて、へーそういう仕事もあるんだ。と呟く夜久さん。

「私は魔法使えないんで」
「……なるほどね。じゃ、その依頼者さんのところへ行こ」
「えっ、そこまでして頂かなくても」
「いいのいいの!また逃げられたら困るだろ?」
「そうですけど……」
「よし!行くぞ!」
夜久さんに背中を押されて進む。
……ま、まぁいいか。
今では1人で仕事してたけど、たまにはこういうのもいいかもしれない。

「あのー、夜久さん」
「ん?」
「依頼者さんのお家は反対方向です!」
「へ!?」
私が夜久さんにそういえば、背中を押すのを止めて止まる。
腕の中のゴンザレスが、きょとんとした顔で私を見る。
「は、早く言ってよ!」
顔を少し赤くして方向転換する。
この人かわいいな。

「よし!改めて連れてくよ、えっと名前なんだっけ?」
「ゴンザレスです!」
「ゴ…ゴンザレス!?お、おう。よし!行くか!」
「は、はい!」

ゴンザレスを抱き直して、この猫を待つおばあちゃん家まで歩く。
おばあちゃん家に着いて、コンコンと玄関の扉を叩けばバタバタという音が聞こえてきて、扉が開いた。
うん、猫にそっくりだな。

「え、エリザベスちゃん!おかえり」
「ん?エリザベス!?」
「えっ!?」
おばあちゃんの一言に驚く。
あれれ??ゴンザレスって言ってなかったっけ。
夜久さんを見ると、きょとんとしている。
「ありがとうございます!あ、これは報酬です。」
「は、はい」
「また何かあったら依頼しますね」
「ぜ、是非!」
「では!本当にありがとうございました!」
私たちに頭を下げるとおばあちゃんは家の扉を閉める。

「……」
「……」
「ゴンザレスじゃなかったね」
「エリザベスでしたね」
そう言って顔を見合わて笑ってしまう。
私はどうやら勘違いをしていたらしい。
「あはは!久しぶりにこんなに笑ったよ!」
「はい!私もです!」
「今日はありがとう!」
「いえいえ!お礼を言うのはこちらです!あ、報酬は半分こにしましょう!」
そう言って、もらった袋を開ける。
中にはこの国のお金と美味しそうなクッキーが6つ入ってラッピングされたもの。

「いや、いいよ!君が全部貰って!」
「いえ、そういうわけには」
「じゃあ、そこのベンチでクッキーを
分けて食べよう!お腹空いたし!」
どうやら彼はお金の方は受け取ってくれないらしい。そういうところは結構頑固みたいだし……。
「わかりました、そうします。」
2人でベンチに座ってクッキーの袋を開ける。

「はい、夜久さんどうぞ」
「ありがとう!……お、これおいしい!」
「本当だ!美味しいですね!」
まるでお店のクッキーみたいだ。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
「私もです。あ、あの!」
「ん?」
二枚目を食べている夜久さんに声をかける。

「もし、夜久さんが困ったことがあったら連絡してください!今日助けていただいたお礼もしたいですし!」
「いや、お礼はいいよ!」
「いや、そういうわけにはいきません!」
「……わかった!あ、ケータイもってる?」
「えっと、はい」
「連絡先教えて」
「……!はい!!」


(おー、夜久!今日は楽しそうだな!)
(黒尾か、まあな)
(なんだ??彼女でもできたか?)
(ば、バカ!違ぇよ!)
(なにあわててんだー??)


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