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受付で怒鳴り声を上げている男がいたと望月から聞いた。三井先生を出せと言っていたので三井先生絡みの件らしいが何があったのかは全くわからなかった。ただ少し望月は悲しそうな顔をしていた。名前を呼ぼうとしたら端末の着信音によって遮られた。

「今日は1人でやってみなさい。なまえなら大丈夫でしょう」
「えっ?!もう1人でさせるんですか!?僕はこの前やっとだったのに…」
「ケンは今も1人でさせるのは不安だがな」

葉山の言葉にうなだれる犬山に苦笑し、MRI室へ向かった。そこには既に西条と白石、藍沢がいた。

「今日はみょうじ1人か。ま、お前なら心配ないな」
「よろしくお願いします」

男性の頭部を撮り加工をし、西条に診てもらう。MRIを見た西条は1つため息をついた。

「左前頭葉の脳腫瘍と脳ヘルニアが起こっている。」

この場合どうするべきかを2人に問い、そして判断を2人に委ねた。2人はそのまま出て行き西条もしばらくしてから出て行った。

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先程の男性、松原について少し考えていた。あの歳だと手術はせず薬だろう。痛みを和らげるだけで寿命は伸ばせない…近いうちにあの人は亡くなってしまう。そう考えるとじわりと目頭が熱くなった。患者に対して感情を抱いてしまうのがみょうじの悪い癖だった。

「…みょうじ?」
「あ、藍沢先生。お疲れ様」

潤んだ目を袖で拭いてから振り返った。その仕草に藍沢は疑問を持っているようにこちらを見た。

「…松原の事で泣いてたのか」
「いや…まぁ、うん」
「意味がわからないな。松原はみょうじの親戚でも知り合いでもないだろう。なのになんで泣くんだ」
「確かにそうだけど、誰かが亡くなることって私にとって悲しいことなの」
「やっぱりわからない。みょうじは誰か知らない奴が死ぬ度に泣くのか?」
「流石に私の知らないところで亡くなったら泣かないけれど、もしかしたら泣くかもしれない…藍沢先生に白石先生、緋山先生、藤川先生。葉山さんに望月さん、犬山さん。もしも誰かが亡くなったらって考えるだけで涙が止まらないから」

言葉にした途端涙が出て来た。松原のことで涙が出たこともあり、ポロポロと流れる涙を止めようとすればするほどあふれ出てきた。

「あ、ごめ…。」

涙を拭こうとした時、どんっと衝撃を受けた。目の前には青色が見え、え?と思い何が起きたのか頭で理解する前に藍沢はみょうじからパッと離れて何処かへ歩いて行った。
人通りの少ない廊下にポツンと取り残された。涙はとっくに引っ込んでいた。