4-1

「病院の空きのベッドは3つ…。」

犬山はうなだれながらそう言った。この大きな病院で空きが3つしかないということはそれだけ患者が沢山いるということになる。
CT検査やMRI検査、書類整理に医者に申告…やることが多すぎて目が回る。今日は残業かもしれない雰囲気が漂っていた。

「犬山さん、飲み物買ってきますけど何か飲みます?」
「…お酒。」
「…だいぶ疲れてるみたいですね。エナジードリンク買ってきますね」
「ごめんよぉ。お願い…」

机に突っ伏し、頭をぐりぐりしながら情けない声を上げる犬山に少し癒され部屋を出た。
葉山と望月はCT室とMRI室にこもりっぱなしで患者を撮っている。2人に何か買っていこうか考え事をしているとドンっと曲がり角でぶつかってしまった。よろけたみょうじは尻餅をつきそうになったがぶつかった相手が腕を引っ張ってくれた。

「ごめんなさい!」
「っ!すみま…あ、」
「藍沢先生。よかった患者さんじゃなくて…」

ホッと胸をなでおろすと藍沢は腕を放した。考え事をしながら歩くのはよくないな。と肝に銘じていると藍沢が口を開いた。

「患者にぶつかったらあんたが転ぶかもな」
「えっ?!いや、大丈夫だよ。流石にそこまで貧弱じゃないし…」

小声で多分と付け加えるとフッと鼻で笑われた。そこに一人の中年女性が声をかけてきた。

「あの、もしかして救急救命士のかたですか?」
「はい、そうですが」
「あの、藤川って方元気にやってますか?」
「…ご家族の方ですか?お会いしていっても大丈夫ですよ」
「いいんです。こっそり様子を見に来ただけなので。」
「藤川先生ならいつも元気そうですよ」

みょうじがそう伝えるとホッとしたように笑った。そして手土産にと、地元で有名なお菓子を手渡された。藤川の母親は藤川に会わずにそのまま病院を出て行った。

「…本当に会わなくてよかったのかな」
「本人が会わないって言ったんだからいいだろう」
「うーん…あ。藍沢先生、お菓子どうしよう」
「食えばいいだろう」
「私が食べちゃまずいでしょう。きっと藍沢先生達宛てだし」

はい。と紙袋を藍沢に渡し購買部へと向かった。

―――
――


「飯田さん21歳…か」

搬送された飯田さんのレントゲンを見て小さくため息が出た。水深1mしかないところを飛び込むなんて…。

「あら、頸髄を損傷、これはもう首から下が動かないわね」
「まだ21歳なのに…本人も辛いだろうし、伝える医者も辛いでしょうね」
「自業自得よ。普通に考えれば水深1mで飛び込む方がおかしいわ。泣きそうな顔しないでちょうだい」

望月がそう言ったところでCT室をコンコンとノックする音がした

「すみません、CT撮ってもらえますか?」
「白石先生。新しい患者さんですか?」
「…あら、さっきの患者じゃない。また来たの?」
「え?また?」

後で説明するわ。と言われ患者のCTを撮る。加工したり断面図を見るが何の問題も見当たらない。

「なまえから見て、この患者はどう思う?」
「えっと、健康体です。どこも悪いところは見当たりません」
「でも彼、吐血に痙攣まで起こしたのよ」

ずっとモニターを見ていたみょうじは驚いて望月の方を見た。