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――折原臨也って知ってる?
――情報屋の?
――また平和島静雄に喧嘩売ったんだって
――いつもの事じゃん

またやったんだ…と頭の片隅で考えながら音楽を流していないヘッドホンをつけながら町の噂話に耳を傾ける。買った缶コーヒーがもうすぐでなくなりそうだな…とぼーっとしていると誰かが後ろからヘッドホンを取った。

「っあ」
「あれぇ〜?君がどんな音楽聞いてるか気になったのに何にも流れてないぞ〜?」
「ちょっと!臨也!返してよ!!」
「もしかして盗み聞き?よくないなぁ〜そうゆうの人としてどうかと思うよ〜」

にやにやと笑いながらイヤホンプラグには何も刺さっていないヘッドホンが臨也によって晒された。

「もー!返してったら!!」
「キスしたら返してもいいよ?」
「絶対に嫌」
「大丈夫!僕は君が好きだから。安心して?」
「私がチュパカブラならそんなこと言わないでしょう。」

そう言った途端にお腹を抱えて笑い転げ始めた。

「ちゅ、チュパカブラ、あははは!た、例えが常人じゃないよね!!」
「たまたま昨日見た番組にチュパカブラが出てきたからすぐ出てきただけだもん!偶然だもん!!笑わないでよー!」

まだツボにはまっている臨也からヘッドホンを奪い取って着けると残り少しだったコーヒーを飲み干してゴミ箱に捨てた後改札へ向かった。

「あれー?どこか向かうの?」
「ネッ友に会いに行くだけ」
「へー…それって明日ちゃんって子?」

臨也がそう言った瞬間ぴたりと動きが止まった。

「あ、やっぱりー?あの子は女の子だから大丈夫だよ。でも暗くなる前に帰ってくるんだよ〜」
「…そうゆうのやめた方がいいよ。」
「え?なんのこと?」

にこにこととぼけた臨也に軽くパンチして改札をくぐった。
またどこかから盗聴された…いったいどこから…
悶々と考えていると目的駅へ到着した。

駅を降りて目的のお店へ向かう。一昔前の商店街のようでなんだか安心感を覚える…

「あの、すみません。ここの近くにイトカン…?ってお店知りませんか?」
「あぁ、そこなら今から行くから案内するよ。」
「ありがとうございます。」

ガタイのいいお兄さんと雑談をしながら目的地へ向かう。少しオイルのようなガソリンのような匂いが染みついているみたい…車屋さんか何かなのかな…。
ぼーっと考えながら着いていくと温かい雰囲気のあるお店にたどり着いた。
看板にはITOKANと書かれており、待ち合わせ場所はここなのか、と思った。

「よっす。」
「いらっしゃい。なににす…あんた彼女でもできたの…?」
「ちげぇよ。たまたまそこで道聞かれただけだよ。」

奥の方の席で座っていたピンクの改造制服を着ていた1人の女の子が彼女という言葉に反応したのか勢いよく立ち上がりこちらを睨んできたが事情をしってすぐに座りなおした。
ちょっとだけ怖いと思ったのは心に収めておこう…

「あの、ここで明日って人と待ち合わせをしているんですが来てますか?」
「明日?」
「あんたがマコか?」

声がした方を向けば先ほど怖いと思ったグループの1人が間近でこちらを睨めつけるように見てきた。
これは…怖い…

「えっと、そうです…もしかして明日ちゃんですか…?」

しばらくの沈黙と周りからの痛い視線に耐えつつちらっと明日ちゃんの顔を盗み見ると顔が真っ赤になっていた。

「ご、ごめ」
「明日ちゃんって言うなコノヤロー!明日香って呼べ!いいな!!」
「え、うん。わかった…」

ちゃん付けで照れただけなのかと思いつつ引っ張られるように席に座らせられた。いわゆる誕生席という場所でピンクの改造制服に身を包んだ人たちに穴が開くくらいガン見された。

「こいつが明日香さんの言ってたネット友達ってやつですか?」
「あぁ、いいやつだからいじめんじゃねぇぞ」
「明日香さんのお友達なら手をだしませんよ、で、今回はこいつも含めて集会っすか?」
「集会?」
「あぁ、こいつの話は為になる。みんな心して聞けよ。」
「うっす!」
「あの、集会って何するの?」
「まずはな、ナオミさん!いつもの!」

「はいは〜い」と言った後に先ほど出迎えてくれた女性がコップを人数分持ってきた。中には薄ピンク色の飲み物が入っていた。

「…いちごみるく?」
「これが無いと始まんねぇだろ?」
「うっす!」

この後がとても長かった。集会という名の恋愛相談で、ただ私が乙女ゲームをプレイした時にどうされてうれしかったからそうじゃない?みたいな話をするだけの集まりだった。
なんだか、同い年くらいの女の子と話すのは久しぶりでとても楽しかった。途中で混ざってきたダンさんは女子の反感を買ってしまい帰れと怒鳴られたりしていたけれど…。

「あ、もうこんな時間…」
「帰るんすか?」
「もちょっとだべってたいっす」
「池袋っすよね?バイクで送れるっすよ」
「あ、本当?じゃあもちょっと」

「ダメだよ」

1人の男の声で一瞬で静かになった。
この声は、振り返りざまに机にかけていた手の付近に小型のナイフが刺さった。

「も〜、暗くなる前に帰るんだよって俺言ったよね?」
「ちょっと、危ないんだけど?」
「俺的には夜の池袋を歩く方が危ないと思うんだけどなぁ」

一つ軽くため息をついた後ナイフを抜き取り臨也に手渡した。
明日香にはまたねと一言告げた後臨也の横を通り抜けITOKANを後にした。

―――
――


「あれがヤンデレ彼氏ってやつですかね」
「どうなんすか?順子さん」
「順子さん!」
「…あ、あれは…そうだと、思う。ヤンデレは愛がすごいんだよ!」
「なるほど…」




臨也と静雄に乱闘してもらいたかったけど山王に迷惑掛かりそうだった…