広大な罰


休み時間を見計らって声をかけてみようとはチャレンジした。

けど、移動だったり周りに切島くんとか上鳴くんとかがいたりして話しかけることすらままならない。

一日中そわそわしていた私は挙動不審だったろう。事実、お茶子にトイレを我慢していると思われていた。

7限終了の鐘が鳴る。クラスメイトが続々と帰っていくなか、これからグラウンド整備だ。整備ってなにをしたらいいんだろう。


「苗字と爆豪は5分後にグラウンド集合だ。」

「名前ちゃんなにしたん?朝の呼び出しってこれ?」

「あー、うん。ちょっといろいろあってグラウンド整備の罰もらっちゃった。」

「広いから大変やと思うけど、頑張って!」


お茶子の応援を受けて、急いでグラウンドへ向かう。3秒でも遅れようものなら明日も罰をもらいそうだ。

ぎりぎりグラウンドにつけば、もう勝己は来ていた。ポケットに手を突っ込んで、不機嫌オーラをむんむんに振りまいている。


「揃ったな。これ持って、グラウンド整備。個性の使用は禁止。まぁお前らの個性じゃ役にたつどころか余計時間かかることになるだろうが。終わったらソレ片付ける場所教えるからどっちか職員室に来い。誰か対応する。」


トンボを渡して、相澤先生は帰っていく。この間の個性把握テストのときも思ったけど、このグラウンドかなり広い。

ここを二人で整備するとか……ぶっちゃけ罰聞いたときはなんだ楽勝って思ったけど、訂正。むちゃくちゃキツいです。


「ちゃっちゃと終わらせるぞ。名前は向こうからやってけ。俺はこっちからやってく。」


言うやいなやトンボを引きずって背中を向けられる。私も勝己と反対方向へ歩き始めるも、一瞬足が止まる。

え、やっぱり今私のこと名前で呼んだ!?

ぐりんと振り返るも勝己は気にしている様子はない。ダルそうにトンボをかけている。

聞き間違いだったのか…?


「ま、いいか。」


トンボを引いてところどころ個性の使用でか抉れたり隆起している部分を均していく。少し傾いたお日様はまだまだ力強くグラウンドを照らしている。

時々勝己のほうを見ると、まぁ普通に罰をこなしている。こういうところは本当に真面目だ。

左右に分かれたということは、お前は半分を担当しろよということなんだろう。勝己の方が若干進んでいるようだし、私も真面目にやらなければ。


ザリザリ、ザリザリ、とトンボが砂を引きずる音だけが聞こえる。もう往復回数を数えるのも飽きてきた頃、隣にトンボがもう一つ見えた。

もう半分も終わらせたのかと顔を上げればそんなことはない。まだ3分の2ほどだ。


「おせーんだよ。」

「えっ、勝己早くない!?」


なんと半分を超えて私の陣地までやってくれたようだ。勝己担当のほうを見れば、性格はひん曲がってるくせに、丁寧で綺麗な一直線に整えられたグラウンドが見える。


「てめーが職員室行ってこいや。」


リカバリーガールに綺麗にしてもらったふくらはぎが蹴られる。いつもならじゃんけんでもしようと申し出るが、私の分もやってくれたし、そもそも私のせいで個性を使わせてしまったんだからと大人しくトンボを立てかけて校舎へ駆け出す。

相澤先生はいなかったので、代わりにマイク先生が見に来てくれた。日陰で休んでいた勝己の使っていたトンボが隣にあったので一緒に運ぼうとしたら、いつの間にかこっちに来ていた勝己に2本とも奪われた。


「トロいんだよ。先に帰ってろ、クソが。」


やっぱり今日は勝己が変だ。置いていかれるかもしれないけど、本当に先に帰るのも申し訳ないし、戻ってくるまで待っていよう。

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