変化を見せる日常
今日はやけに勝己が変だ。怒鳴ったりするのはいつも通りなんだけど、なんというか雰囲気が変。
昨日のお礼を言わなきゃと思って、いつもより早く家を出て、いつもの曲がり角で待っていた。
抱きついちゃったり、泣いたりしたもんだから、どこか気恥ずかしくてようやく姿を現した勝己をからかったら、タイミングを逃した。
いつもは歩幅を合わせてくれるのに、合わせてくれなかったり、そもそも視線が合わなかったり、かと思えばいつもは置いていく駅から学校までの道のりは、家から駅までとは違って歩幅を合わせて一緒に登校してくれたり。
下駄箱についたらさすがに一人で教室にいっちゃったけど、なんなんだろう。勝己ママに言われたからって、なんだかおかしい。
「苗字、爆豪、ちょっと職員室来い。」
席に荷物を置いたら、入り口から声がかかる。多分、いや確実に昨日のことだろう。相澤先生の後ろについて勝己と一緒に職員室へと向かう。
「とりあえず二人とも無事でよかった。事情は聞いているが、爆豪お前……個性使ったそうだな。」
「先生!それは私を助けるためで!」
「気ィ付いたら使ってた。」
「勝己!」
「お前らも知ってのとおり、公共の場での一般人の個性使用は認められていない。時間が早かったからか、幸いにも目撃者はほぼいない。が、お前らを罰さないわけにもいかない。」
先生の言ってることももっともだ。騒ぎ立てていた唇をぐっと、かみ締める。どこか切れたのか口の中は血の味がする。
「個性使ったのは俺だけだろ、なら俺だけにしろや。」
「勝己が使ったのは私のせいです!罰するなら私だけを!」
「うるせえ!使ったのは俺だって言ってんだろ!てめーは引っ込んでろ!」
「そう言うと思ったから二人とも罰する。正直キツいぞ。覚悟しろよ?」
にんまりと、相澤先生が笑った気がした。どうか除籍じゃありませんように…!
「今日二人でグラウンド整備して帰れ。以上だ。苗字は保健室いっとけ。その怪我じゃ授業受けれねぇだろ。」
正直ほっとした。それは勝己も同じみたいでチラリと盗み見たら視線を思い切り逸らされた。
相澤先生から受け取った紙を片手に勝己と別れて保健室に向かう。そんな大した怪我してないんだけどな。
「失礼しまーす。」
「はいはい、聞いてるよ。こっちへ座りな。」
既に用意されていた椅子に座れば、足を中心に治癒を施してもらう。あんなに絆創膏だらけだったのに、もうすっかり綺麗だ。大きな怪我はなかったのか、疲労もほとんどない。
「災難だったねぇ。昨日の子は腕の火傷がすごかったんだけど、そのおかげでほとんど怪我がないよ。フラフラするのはまだ少しパニックになっているんだろう。ペッツでも食べて元気だしな。」
手のひらに転がるペッツをありがたくいただく。念のために軽く足踏みしたり、屈伸したりするけど、なんの違和感もない。さすがはリカバリーガールだ。
「勝己……いえ、昨日のその人の怪我は大丈夫だったんですか?」
「個性のキャパオーバーによる軽い火傷さ。あんたを助けるために火事場の馬鹿力みたいなものが出たんだろうね。」
勝己に聞いても絶対教えてもらえないので、リカバリーガールに聞いてみて正解だった。
なんにせよ、大怪我じゃなくてよかった。
さて、怪我までさせてしまったのだ。ほんとにいつお礼を言おうか。
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