普通科の秘密
「蛙吹。」
「ケロ?爆豪ちゃん?」
「コイツなんとかしろ。」
「あら名前ちゃん、どうしたの?」
いろいろな感情が一気に押し寄せてきたせいなのか、あのまま腰を抜かしてしまったらしい私は静かになって立ち去ろうとした爆豪くんに助けを求めるしか出来ず、どうにかこうにか食堂まで引きずって来てもらったのだ。
偶然見つけた梅雨ちゃんに文字通り投げられた私は梅雨ちゃんの腕の中で必死に言い訳を考えていた。
「え……っと、本選にいけた喜びで腰が抜けちゃって……?」
苦し紛れの言い訳だったにも関わらず梅雨ちゃんだけでなく近くにいたクラスメイトまでも、それなら仕方ないと納得してくれたらしい。
あれよあれよと空席に座らされて代わりに昼食を取ってきてもらって、さっきまでの空気が一変してなんだか温かい気持ちになった。
「名前ちゃんもお茶子ちゃんも本選出場おめでとう。」
「ありがと!でも梅雨ちゃんの作戦にはびっくりしたよー。」
「峰田ちゃんにしてはいい案だと思ったから乗ったんだけど、いつの間にかポイント取られちゃってたわ。」
「えっ、なにそんなにすごかったの?」
そういえば騎馬戦の最中、梅雨ちゃんを見かけなかったような気がする。どこにいたんだろう。
「すごかった!障子くんの背中に乗って隠れてたんよね!」
「えっ、なにそれすごい!ていうか障子くんそんなこと出来るんだ!?」
全然知らなかった。ちょっとアトラクションっぽくて楽しそうだと思ったのは心にしまっておこう。障子くんも峰田くんも梅雨ちゃんも、本気で本選を狙ってたからの作戦なんだろうし。
「そういえば名前ちゃんは普通科の人と知り合いだったの?」
「ううん、はじめましてで騎馬やらせてもらったの。尾白くんが一人でぼーっとしてたから声かけたら同じチームだっていう心操くんが声かけてくれて。だから知り合いなのは尾白くんかも。」
しかし、よくよく思い出してみれば、騎馬戦の最初から最後まで尾白くんは少し変だったような気がする。
USJのとき、一緒に戦ったからわかる。尾白くんは戦いの最中で何度も私に声をかけてくれていた。それは安否を心配する言葉だったり、鼓舞する言葉だったり様々だったけど、あんなに静かに淡々と騎馬戦をこなすとは思えない。
そしてなにより、いくら見えていなかったからだと言っても、3位通過が発表されたときの驚きぶり。なにかがおかしい気がする。
「ちょっと私用事思い出したから先行くね!」
少し強引に雑談を終わらせればトレーを持って大急ぎで食器を返却する。尾白くんは一体どこにいるんだろう。
もしかしたらあの時、尾白くんはなにか個性にかけられていたんじゃないだろうか。
キョロキョロと周囲を見渡しても尾白くんは見当たらない。控え室にでも移動してしまったのだろうか。
もう少し探してみて、それでもいなければ控え室を探してみよう。
「あ、轟くん!尾白くん見なかった?」
尾白くんを探していたら、轟くんが見つかった。先ほど盗み聞きしてしまった内容が頭をよぎって、なんとなく顔を合わせづらい。
返事を聞いたら早々に離れよう。
「いや、見てねぇけど。」
「ありがと!」
くるりと方向を変えて一歩踏み出そうとした。前に進むはずだった体は、なぜか動かなくて腕が誰かに掴まれている。
この状況だと掴む人など轟くん以外にいないとわかっていても、現実逃避したくなったのだ。
「えっと……?」
「え?あ、悪ィ。」
轟くんも無意識だったのだろうか。振り返った私と目が合ってはっとしたのか、腕が離された。
「……最近尾白と一緒にいるけど、仲いいのか。」
少しの沈黙のあと、轟くんが口を開いた。そんなに気になるほど尾白くんと一緒にいただろうかと、ふと疑問に思った。意識していたわけじゃない。もしよく一緒にいると思われているのなら、それはきっとUSJのときのケガを心配してくれていただけだ。
「仲はいいけど……どうしたの?」
轟くんの本心がわからない。もし、もしも、それが嫉妬からくる質問なら、私は今すぐにでも告白してしまいそうだ。
でも、そのままはぐらかされてしまって、真意はわからないままだった。
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