無意識の心地


今日は朝からイライラしていた自覚はあった。クソ親父が体育祭を見に来るなどと言い出したのが原因だったような気がする。

控え室で緑谷に宣戦布告をして、覚悟を決めたところで第一種目。爆豪が追いかけてくるのは予想していた。

足止めに撒いた氷が多数の生徒を捕獲するなか、A組は当然容易に避けて追ってくる。どんな障害があるかなんて知りはしなかったが、お母さんの個性を持ってすればどんな障害だって乗り越えられると思った。

一面地雷原だという最後のコースは、案の定調子をあげてきた爆豪との一騎打ちの予定だった。

だというのに、先頭でゴールを決めたのは俺でも、爆豪でもなくて、緑谷だった。確かに、緑谷の個性は強力で個性さえ使ってくれば1位はありえない話ではなかった。

けれど、緑谷の個性はリスキーで一時的に爆発的な力を使えても、その反動で使用した部位がボロボロになる。

使われればまず追い越せないだろうが、そんなリスクを負ってまで緑谷は追ってこないと踏んでいた。

なのに結果は緑谷の1位。無意識に握り締めていた拳が痛んだ。そんな時に息も絶え絶えにフラフラ歩いている苗字を見つけて、少しだけイライラを忘れることが出来た。

それがなにを意味しているかなど、考えもせず一言二言苗字と話をして落ち着きを取り戻した。

第二種目は騎馬戦と発表されてすぐにメンバーを考えていた。ポイントが割り振られるということは、少しでも有利な俺が話を持ちかければ首を振るものはいないだろう。

なにせ1位は1000万なんて桁違いだ。誰しもがそれを狙う。なら、少しでも有利なほうがいいと思うのが心理だろう。

すぐに起動の飯田、全範囲攻撃に上鳴、俺たちが巻き込まれないように防御として八百万に声をかけた。

三人とも二つ返事で早々にチームが決まる。苗字にも声をかけられたが、クソ親父を見返すためにはここを抜ける必要がどうしてもあった。

しかし、ここでも緑谷のせいでイラつかされた。せっかく苗字と話して落ち着いたというのに、俺が左を使わないことを見越した立ち回り。

更に言えば、1000万を奪い返しに来た気迫に思わず左を使ってしまった。

騎馬戦が終わって、本選への出場が決まった。無事1位で決まっても、イラつきが消えることはなかった。

昼休みだと戻らされる中、緑谷を呼び止めて俺の話をした。自分のなかでギラギラと炎が灯るのを感じる。

クソ親父を否定する。そうだ、それでいい。

だが、それも食堂で苗字に声をかけられてすっと勢いを失くした。尾白を探しているらしい。

苗字から尾白の名前が出てきたときに、ふと苗字はよく尾白と一緒にいるような気がして少しむっとしてしまった。

今まで感じていたイライラとは少し違う。

そして気付いたときには苗字の腕を掴んでいた。確かに少しだけ行かないでほしいとは思ったが、俺は一体なにをしているのか。

咄嗟に言い訳など思いつかなかった。仕方なく頭をよぎった疑念を口にして、返事を待った。

が、唐突すぎたのか苗字はイマイチ質問の意図が理解出来ていないようだ。

これ以上何かを言うと、墓穴を掘ってしまいかねない。タイミングよく現れた飯田にこっそりと感謝して、苗字を適当にはぐらかすことができた。

苗字を前にしたときの自分自身の行動がよくわからない。俺の意思に反して勝手に行動してしまうようで、でもそれが少しだけ心地よかった。

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