ハチマキ奪還


最初より断然騎馬同士の息が合ってきて、走る速度が上がっていく。もう少しで物間くんたちに追いつけるというところで、再び勝己が手のひらを爆破させて飛び上がった。


「待てえええ!!待てって!!」


飛び出していった勝己に声を荒げる切島くん。その声を逃げ回る物間くんたちを追いかける声だと思ったのか、彼らが振り返る。


「勝手すなああ、爆豪ーー!!」


彼らの目の前には、飛び出していった勝己。出久のときみたいに高さがあるわけじゃない。出久のときに、ミッドナイト先生が足がついたらアウトと言っていたのに、なにを考えているんだ。

円場くんと呼ばれた男の子が、個性を使用したようで、勝己はなにかにぶつかって空中で浮いている。しかし、今の本気でキレている勝己にそんな程度のガードじゃ、守りきれるはずがない。

案の定勝己は強引に防御壁をぶち破って、悠々と逃げようとする物間くんの首からハチマキを2本奪取した。

空中で体勢を崩した勝己は、すかさず瀬呂くんのテープで回収する。リアルタイムで動き続ける画面に目をやれば、3位。

さっきの放送で残りが1分を切っているとわかっているから、このままいっても通過は可能だ。だけど、勝己がそれで満足するはずがなかった。


『この終盤で順位が変わりゆく!若気の至りだあ!!』


「跳ぶ時は言えってば!!」


「通過は出来そうだけど……いくんでしょ、勝己!」


「当たり前だ!!」


勝己は止まってしまいそうな切島くんの頭を叩いて急かす。また動き出した騎馬だったが、少し距離が開いてしまった。これでは追いつけない。でも、勝己はこんなときのために作戦を立てていたようだ。


「しょうゆ顔!テープ!」


「瀬呂なっと!!」


勝己の意図は伝わっていたのか、瀬呂くんが瞬時にテープを伸ばして物間くんたちの騎馬の横に貼り付ける。

物間くんはまたこちらを煽っている。外れたんじゃなくて、外したことに気付いていない。


「名前!撒け!」


「指示雑すぎない!?」


顔を横に避けて地面一体を視界にいれる。瞬時に水浸しになった地面はぬかるんで滑りやすくなっている。


「瀬呂くんオッケー!」


私の声を合図に瀬呂くんがテープを巻き取っていく。それにあわせて勝己が後方に向かって爆風を起こして勢いをつけていく。

追いつけないと高をくくっていた物間くんたちは咄嗟に指示を出すことが出来ず、先ほどの円場くんとやらの個性をコピーした物間くんがガードをするが、それはさっき勝己が壊せたものだ。

硬度が変えられるにしても、オリジナルならまだしも、コピーして瞬間的に使っているだけの物間くんがそこまで出来るとも思えない。

勝己はそれすらも予想していたのか、それとも単純に奪い返すという想いが強かったのか、あっさりとガードを破って最後の一本も奪い取った。


『爆豪!!容赦なしー!!やるなら徹底!彼はアレだな、完ぺき主義だな!さぁさぁ時間ももうわずか!』


マイク先生の放送に会場中が盛り上がる。けれど、喜んでもいられない。あくまでも勝己の目標は完膚無きまでの1位。1000万Pでしかなのだ。

出久の持っていた1000万Pはさっき確認したとおりなら、今は轟くんが持っているはず。その轟くんは、未だに出久と交戦中ということは、出久もまた、1000万Pを狙っているということだ。


『残り17秒!こちらも怒りの奪還!』


何Pが取れたのかはわからない。確認している暇もない。残り時間を聞いた勝己がまた、飛び出した。カウントダウンが始まるなか、激しさを増す戦いのせいで、私の位置からだと何が起きているのかわからない。お願いだから取れて…!


『TIME UP!』


ようやく視界が開けたときはすでに時間が来ていて、勝己は地面に落ちていた。いくら集中力が切れたからって、もう少しマシな着地はなかったのか。

順位が発表されていく中、騎馬を解いた私は顔面から落ちたらしい勝己の傍にしゃがんで頭をつっついた。むくりと起き上がって叫びだした勝己はちょっとだけ面白かった。

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