巧妙に仕掛けられた罠


『一時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!』


マイク先生の声を合図に観客も含めてぞろぞろと会場を出て行く。選手も同様でクラスメイトと共に会場を後にした。もうお腹がぺこぺこだ。


「名前ちゃんすごいわ。最後のほう私たち動けなくて遠くから見ていただけだけど、あんな使い方できるのね。」


「あぁ、ぬかるんだあれ?昔あれでよく勝己転ばせてたんだよね。だから、勝己の頭にもよく残ってたんだと思うの。地面が土でよかったよ。」


コンクリートなら、材質にもよるけどあそこまで滑りはよく出来なかっただろう。そこは、運がよかったとしか言い様がない。


「あれ、勝己がいない。」


「緑谷くんデクくんもいないね……」


後ろを振り返ったら、どこにも勝己の姿が見えなくて、お茶子曰く出久もいないらしい。二人で迷子にでもなったのだろうか。とはいえ、人の流れもあるし大丈夫だろう。


「お茶子ー!ご飯一緒に食べよ!」


「私もご一緒していいかしら。」


「もちろん!梅雨ちゃんも一緒に食べよ!」


食堂はもう人で溢れかえっていて、なんとかテーブルにつくことができた。席を探してさ迷っていた飯田くんたちも向かいに座ってもらって、一緒に食べた。


「飯田くんもお茶子も次進んだんだよね。」


「あぁ、そういう苗字くんも2位通過だったな。」


「例年で行くと1対1の勝負やんな……。誰と当たるんやろ。」


「相性もあるものね。轟ちゃんや爆豪ちゃんはやっかいだわ。」


食事もそこそこに、午後の競技へと談義は進んでいく。飯田くんと当たることになったら正直やっかいだ。飯田くんの速度で走り回られたら、視界に留めておくのが困難でしかない。


「私は飯田くんとは当たりたくないかも。」


「俺も出来れば苗字くんとは当たりたくないな。」


「でも勝ち上がっていけば絶対戦うことになるもんね。対策考えなきゃ。……そういえば、お茶子のチームにいた女の子ってどんな個性なの?」


「個性はわからん。でもサポート科だけあって、ベイビー?たちはすごかったよ!」


「サポート科の道具はやっぱり危険だよね……。更に個性まで使えるとなったら戦闘向きなら手ごわい相手になるかも。」


対策を練ってうんうん唸っていたら、慌てた様子の八百万さんが勢いよく突っ込んできた。


「よかった、ここにいましたのね。今A組の女子を全員集めていますの。少し来て下さいます?」


私と梅雨ちゃんとお茶子、誰もがよくわからないままに席を立って八百万さんについていく。手分けして探していたのか、もう全員そこにいた。


「先ほど相澤先生からの言伝ということで聞いたんですけれど、午後は女子の応援合戦があるらしくて、どうやら伝えそびれていたようですの。」


「ウソでしょ……これ着るの?」


差し出されたチアリーディングの服は、八百万さんが個性で出したらしい。いやでも、そういうことするにしても学校側が用意してるもんじゃないの!?それともそこの創意工夫も含めて応援合戦なの!?

全員で更衣室に向かったものの、じっと服を見ていたら、こんなところで負けられませんわ!と意気込む八百万さんに押されて渋々袖を通した。


「ねえやっぱり恥ずかしいんだけど!!もうちょっと裾長くしよう!?ね!?」


「もう全員分作っている時間がありませんわ。」


必死の訴えも聞き入れてもらえず、半ば強引にずるずると引きずられて更衣室を後にした。

だというのに、会場に出てもチアの格好をしているクラスは無くて絶望するしかなかった。

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