火に油


奪われたポイントを取り返すために騎馬の向きを変える。その間もB組の彼はぺらぺらと喋り続けている。


「人参ぶら下げた馬みたいに仮初の頂点を狙うよりさ。」


彼のことは知らないが、今勝己にそんな言葉をかけたら、間違いなくキレる。ただでさえポイントとられて機嫌悪いのだから。


「あ、あとついでに君有名人だよね?「ヘドロ事件」の被害者!今度参考に聞かせてよ。年に一度、敵に襲われる気持ちってのをさ。」


なんということでしょう……。火に油とはまさにこのこと。見えなくてもわかる。完全に勝己がキレた。


「切島……予定変更だ。テクの前にこいつら全員殺そう……!」


顔が見えない私たちにでさえ勝己の怒りが伝わってくる。切島くんのことはわからないが、瀬呂くんはドン引いている。


「勝己……ちょっと落ち着いて。彼らの個性が分からない限りは……。」


恐る恐る声をかけるも、勝己の耳に届いているのかは定かではない。頭上で爆発音が聞こえる。これは確実に怒りで聞こえていない。


「っし、進め切島……!!俺は今……すこぶる冷静だ……!!!」


「頼むぞ、マジで。」


私の声が聞こえていないことは他の二人も気付いたようだ。もうこうなったら勝己を満足させるしかない。B組の彼に向かって進んだその瞬間、爆発音とともに勝己の体が傾いた。


「へぇ!すごい!良い個性だね!」


勝己が自分の攻撃でここまで傾くとは考えにくい。ということは、彼も爆破系?いやでも、良い個性、と言ったということはたぶん。


「くそが!!!」


「待って勝己!多分その人個性のコピーが個性だ!」


私の声と同時に勝己が攻撃をしかけた。だが、その攻撃は切島くんの硬化で防がれてしまった。


「私がやる!」


B組の彼の騎馬を視界にいれて、水中ヘルメットをプレゼントする。上の人が今どれだけの個性を使えるか分からない以上、機動力を削ぐほうが先決だと思ったからだ。

必死に頭を振って水を払おうとしているが、私の視界にいる限りそれは無理だ。しかし、じっと騎馬を見つめ続けているのがばれたのだろうか。横から別のB組の騎馬が真っ白な液体を私たちの目の前に吹きかける。

おかげで視界から騎馬の彼が消えてしまった。死ぬかと思った、なんて声が聞こえてくるから水中ヘルメットは取られてしまったんだろう。


「凡戸!仕掛けてきたな。」


「物間、あとは逃げ切るだけだ。このP数なら確実に4位以内に入る!」


コピーの彼は物間くん。白い液体の彼は凡戸くん。意味はないかもしれないけど、名前を覚えた。


「うおっ、なんか固まって来てる!」


「今洗い流すから待って!」


「早く!0Pだぞ早く!!」


前騎馬の切島くんは先ほどの白い液体が足元にかかってしまったらしい。なにかはわからないが液体だというなら多分洗い流せる。

切島くんの肩においていた手を一旦離して、手から水を辺りに撒き散らす。かろうじて離れた足に動作の異変がないか切島くんが確認している。


「あ、怒らないでね。煽ったのは君だろ?ホラ……宣誓で何て言ってたっけ……恥ずかしいやつ……えー……まぁいいや、おつかれ!」


物間くんが、軽やかに煽っていく。勝己にそんなこと言って無事ですむはずがないのに。煽る相手を完全に間違えてるよ。


「1位だ……ただの1位じゃねぇ。俺がとるのは完膚無きまでの1位だ……!!」


「勝己!切島くん!瀬呂くん!やるよ!」


「当たり前のことぬかしてんじゃねぇぞ、クソ名前が……!」


拳と手のひらがぶつかる音がする。その音が私たちを鼓舞して逃げの一手をとる物間くんたちを必死に追いかけた。

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