今朝の違和感


着替えてスタンドに戻った頃には、ひと悶着終わったあとのようで緑谷くんが心操くんに掴みかかっていた。なんとなく放送を聞いて状況はわかってたつもりだけど、気迫がすごい。

思わず席を探すのを止めて見入ってしまった。心操くんは押し出されそうだ。でも、ぎりぎりのところで体をひねって、逆に緑谷くんに掴みかかる。

でも緑谷くんはそれもお見通しだったのか、そのまま背負い投げで心操くんの背中を地面に叩きつけた。ここからではよくわからなかったが、ミッドナイト先生が場外判定を出したということは、足の先でも線を越えてしまったのだろう。

会場が盛り上がりを見せて緑谷くんの2回戦進出を祝っている。大きな拍手が響くなか、前方に空席を見つけて腰かけた。ここからなら試合がよく見える。


『続きましては〜こいつらだ!優秀!優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ!ヒーロー科瀬呂範太!!対、2位・1位と強すぎるよ君!同じくヒーロー科轟焦凍!!START!』


ステージには瀬呂くんと轟くんがいる。けど、なんだか轟くんに違和感を覚える。朝に感じた近寄り難い雰囲気に胸騒ぎが止まらない。

先手必勝と瀬呂くんが轟くんを捕まえた、次の瞬間だった。私たちの頭上を優に超える巨大な氷塊が現れた。

一気に冷やされた空気が、胸騒ぎを大きくさせる。会場に響くどんまいコールの中、止まらない胸騒ぎが轟くんから目を逸らさせてくれなかった。

轟くんがステージを後にして、次の試合の上鳴くん、塩崎さんが現れてもそちらに集中出来なくて少し早いけれど、控え室に行くことにした。もしかしたら戻ってくる轟くんに会えるかもしれない。

けれど、そんな思いもむなしく誰にも会わずに控え室にたどり着いた。スタンドとは違い、マイク先生の実況だけが聞こえる比較的静かな控え室は心を落ち着かせるのにはうってつけだ。

深呼吸を繰り返せば胸騒ぎはようやく落ち着き、自分のことへと思考を向けることが出来るようになった。芦戸さん対策をあまり考えられていない。上鳴くんの試合はいつの間にか終わっていたようで、今は飯田くんとサポート科の人が戦ってるらしい。

飯田くんのことだ。きっとあのスピードを生かして瞬殺してしまうに違いない。時間は短いかもしれないけど、芦戸さん対策を少しでも考えたい。

幸いなことに芦戸さんにはまだ直接個性を使ったことはない。巻きつけてもすぐに溶かされてしまうようなことはないだろう。

ただ、個性自体は知られているから万が一溶かされたときの対処法が必要だ。強度なんて関係ない。跡形もなく溶けてしまうのだから。

あとは、三奈ちゃん自身の身体能力の高さも不安要素だ。浮かせてしまえるなら問題ないが、そちらに集中しすぎて個性を溶かされたくない。

しかし、時間はあっという間にすぎてしまい作戦を立て切る前に飯田くんたちの試合が終わってしまった。予想よりは長かったようだが、そんなにサポート科のサポートアイテムは優秀なのだろうか。

今度サポート科の助けも借りてなにか新しい技でも開発してみようかと意気込んでステージへと向かう。途中勝ったはずなのに、どこか落ち込んだ様子の飯田くんとすれ違って少しだけなにがあったのか気になってしまった。


ステージに上れば目の前には三奈ちゃん。今、私の一回戦が始まる。

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