感じる不安


『あーーーおォ!!今切島と鉄哲の進出結果が!!引き分けの末キップを勝ち取ったのは切島!!これで二回戦目進出者が揃った!つーわけで……そろそろ始めようかぁ!』


ステージ上の特設リングで腕相撲を繰り広げていた切島くんと鉄哲くんは、切島くんが勝利し、なんだか二人には友情が芽生えたようだ。

男の子ってなんかすごいな。


『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!緑谷対轟!!START!!』


感心していたら、轟くんの試合が始まってしまった。開幕早々轟くんは氷結で攻撃をしかけている。

けれど、それは瀬呂くんの時のような恐怖を感じるほどの大きな攻撃ではなく、緑谷くんの個性を警戒した理性的な攻撃だ。

そして案の定緑谷くんの個性で打ち消された氷結は、冷風となってスタンドを覆った。

寒いとすら感じる空気に包まれる中、じっと集中してステージを見やる。

連続して氷結だけを使って攻撃を繰り返す轟くんと、個性を使ってどんどん打ち破っていく緑谷くん。

会場の熱気は冷めないまま、体だけが冷えていく。


「ゲッ、始まってんじゃん!」


二回戦進出を決めた切島くんがスタンドへと戻ってきた。少し張り詰めた空気が緩和したような気がする。

けれど、ステージ上の二人にそれは届かない。何度も繰り返された攻撃が少し変化を見せて緑谷くんとの距離を一気に縮めて攻撃をしかける轟くん。

しかし、さきほどよりも強い風を巻き起こして緑谷くんは距離をとる。

ステージにはボロボロの緑谷くんと、半分だけとはいえ圧倒的な力を見せる轟くん。次第に会場もざわつきだし轟くんに一目置いている。


『圧倒的に攻め続けた轟!!とどめの氷結を――……、』


マイク先生も終わりを感じ取ったのか、放送が入る。けれど、それを裏切って緑谷くんはまだ攻撃をしかける。ここからでもわかるほど、緑谷くんの腕はボロボロだ。

何故、どうして、そんな疑問とともに不安が大きくなる。胸騒ぎが止まらない。


「全力でかかってこい!!」


マイクを通さない、緑谷くんの肉声。ここまで聞こえてくるほど大きな声だ。そしてそれは恐らく、轟くんの左側を使わせようとしている。

サァっと顔から血の気が引いていく。嫌な思い出が脳裏に浮かんでくる。

轟くんは、緑谷くんの言葉に煽られたのか、攻撃をしかけた。そして、モロに緑谷くんの攻撃を受けた轟くんは吹っ飛ばされる。

轟くんの攻撃も避けられてしまう。少しずつ緑谷くんが優勢になっていくのに比例して不安が大きくなる。


「いやだ……やめて……。」


小さく呟かれた言葉は空気に混ざって誰にも届かない。いつの間にか握り締めた指先は、力をこめすぎたのか真っ白になっている。


「君の!力じゃないか!!」


再び聞こえた緑谷くんの声に顔をあげれば、ステージが見えないほどの大きな炎があがっていた。

これは間違いなく、轟くんの個性。

遠くでエンデヴァーの声が聞こえてくる。その内容が頭に残らないほど集中してステージを見ていた。

炎が落ち着いて、二人の姿がはっきりと見える。轟くんの左側には間違いなく炎が纏われている。

怖くて怖くて、見ていられなかった。そして、下を向いた途端に感じた爆風。なにがおきたのかを確認することもできない。

轟くんは無事なのか。


『それでこの爆風てどんだけ高熱だよ!ったく、何も見えねー。オイこれ上部はどうなって……』


ガラスに覆われた放送室からでも見えないらしい。次第に風が落ち着いて砂煙が晴れていく。ステージに残るのは轟くんで、意識もしっかりしているようだ。

少しだけ、ほっとして席を立った。

真っ白になった指先を解いたら、どくどくと熱く感じられた。

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