進出ならず


一回戦のときも感じたけど、控え室は静かだ。でも、さきほどとは違い、静けさが思考をよくないほうへと導いていく。

一回戦は長引いていた飯田くんの試合。二回戦も長引かないといいんだけど、と思っていたら、すぐに勝敗はついたようで飯田くんが三回戦進出を決めたらしい。

重たい体を持ち上げてステージへと向かう。すれ違った飯田くんの顔は晴れやかだ。一回戦のときとはワケが違う。きっと、飯田くんらしい戦闘が出来たんだろう。


『一回戦はどちらも瞬殺!超高速で試合を終わらせた二人のどちらに軍配は上がるのか!!苗字対常闇!START!!』


合図とともにテグスを常闇くんに巻き付ける。轟くんのことばかりを考えてしまっていたせいで、作戦をなにも立てられなかった。

常闇くんの戦闘スタイル的に突っ込んでこないことは分かっていた。だからこそすぐに常闇くんを縛り上げたのだが、常闇くんは読んでいたのか顔色一つ変えていない。


「行け、黒影。」


常闇くんの声とともに黒影が私に向かって伸びてくる。咄嗟に使っていないテグスを伸ばしてみるが、呆気なく払われてしまった。

黒影に捕まる前に常闇くんを出してしまおうと、テグスを引っ張るが黒影のスピードに負けてしまって攻撃がモロに入ってしまう。

何とか防いだものの、大分後ろに下げられてしまった。繋がれたままの常闇くんも引きずられて今はステージの中央付近にいる。私もステージの中央へ行きたかったが、黒影と常闇くんはそれすらもお見通しなのか連続で黒影に攻撃されてしまい、呆気なく押し出されてしまった。


「苗字さん場外!常闇くん三回戦進出!」


すぐにテグスを解いて巻き取っていく。常闇くんはようやく解放された体に異変がないか確認しているようだ。

作戦をたてていなかったのはやはりよくなかった。しっかりしろと頬を叩くも、もう次はない。

来た道を戻って、今度は控え室に向かった。少し、頭を冷やしたい。

静かな控え室には誰もいない。パイプ椅子に腰を落として息を吐き出す。放送から切島くんと爆豪くんの試合が始まったことを知る。

気にはなるけれど、すぐに戻る気になれなくてぼんやりと壁を眺めていた。どれくらいぼーっとしていたのかわからないが、隣の控え室の扉の音が聞こえてはっとした。


『ああー!!効いた!!?』


どうやら切島くんと爆豪くんの戦いももうすぐ終わりを向かえそうだ。この次は三回戦。飯田くんと轟くんの試合。不安が大きくなるかもしれないが、不安を拭うためには見なければいけない。

控え室を後にしてスタンドへ戻れば、ちょうど二人の試合が終わったところだった。


「苗字、悪い。どこかケガさせたか。」


なかなか戻ってこなかった私を心配していたらしい常闇くんに声をかけられてあいていたその隣の席へと腰かけた。


「ううん、大丈夫。ちょっと思うところがあっただけ。常闇くん対策もいろいろと考えてたら思ったより時間くっちゃって。」


「そうか、それならいいんだ。」


「心配かけてごめんね。」


『準決!サクサク行くぜ。お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!飯田天哉対轟焦凍!!START!』


放送でステージに目をやる。やはり開幕すぐに轟くんは氷結を使って攻撃する。炎を使う様子はない。

その攻撃を飯田くんらしく飛び越えて一気に轟くんとの距離を詰める。そして足を使った強力な攻撃。

咄嗟によけた轟くんに追い討ちをかけるようにエンジンで勢いを増した蹴りが炸裂する。すぐに体を起こして反撃に出る轟くんを飯田くんは捕まえてそのまま場外へ向かって走り出した。

しかし、突然飯田くんの動きが止まってしまったなにかと確認する間もなく飯田くんが凍らされて轟くんの勝利が確定した。


『飯田行動不能!轟炎を見せず決勝進出だ!』


炎を使わなかったのは、思い直したのか、迷っているのか。私には知る由もなかった。

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