ヴィオレリラ


「今日の訓練は実践を想定した戦闘訓練だ。こちらで敵チームとヒーローチームにわけさせてもらった。敵チームは最初から固まっているが、ヒーローチームは別々の場所からスタートだ。誰が選出されているかはわからないようにするから、その場で作戦を立て、敵を征圧すること。」


ヒーロースーツを身にまとって、授業を行うという屋外訓練場に到着してすぐ相澤先生からの説明が行われた。そのまま一人ずつ呼ばれてヒーローか、敵か、この回は見学かを言い渡される。

俺は今回は敵チームらしい。敵役を示す特殊加工がしてあるらしい黒いリストバンドを受け取って伝えられた待機場所へと向かえば、既に爆豪がいた。どうやら爆豪も敵役らしい。


「足引っ張るんじゃねぇぞ、半分野郎……!」


「お前こそ、勝手な行動あんまりするなよ。」


敵役ということで、訓練場の破損は気にしなくていいらしい。そのおかげで爆豪は暴れまわるつもりなのか、目がギラついている。


『それじゃあ振り分けが終わったから開始だ。30分間、お互いに制圧を目指せ。』


放送が終わると同時に爆豪は動き出した。敵役はどうやらこの二人らしい。ヒーローには一体誰が選ばれているんだろうか。


「ちっ……全員ぶっ殺してやる。」


爆豪は飛び回って周囲にヒーローの姿が見えないか探っているが、ヒーローも身を隠しているのか一向に見つからないらしく苛立ちが見え隠れしている。


「げっ、敵ってお前らかよ……!」


「バカ、声出すなって言ったでしょ!」


声に気付いて振り返れば上鳴と耳郎の二人がいた。念のため腕を確認しても敵役を示すリストバンドはついていない。


「半分野郎!凍らせて動き止めろ!」


先に飛び出した爆豪が俺に指示を飛ばす。従うのは少々癪だが、散り散りに逃げようとしている二人を足止めするにはそれしかない。

パキリ、と手のひらから氷を出した瞬間だった。建物の影から勢いよく飛び出してきた人物を見て俺の動きは完全に止まった。


「敵発見!上鳴くんと耳郎さんが交戦中!敵は爆豪くん、轟くん!他にもいるかもしれないけど、今見えるのはその二人!」


「ちっ、ポニーテールの仕業か!」


苗字の耳には無線のようなもの。それで通信をしているらしく、俺たちの情報を話す苗字の凛とした声。思わず聞き入ってしまって上鳴と耳郎への攻撃をうっかり忘れてしまった。

そのせいで爆豪の攻撃は外れ、盛大な爆発音だけが響いた。それは、俺たちの居場所を知らせる決定打となった。


「お、」


ぐらりと視界が揺れる。驚いて足元を見れば、コンクリートへ徐々に埋まる俺の足があった。これは苗字の個性だ。軟化して流動性を持った地面からはどれだけ足を持ち上げても結局体を支えられずに沈んでいく。

爆豪のように飛べるならば話は別だが、そうではない者にとってはもう逃げ場がない。


「てめぇなに普通にくらっとんだ!!」


「悪ィ。ぼーっとしてた。」


頭上から爆豪の怒声が聞こえる。そして、膝まで埋まったあたりで地面の軟化は止まった。再び元の固さを取り戻した地面はがっちりと俺の足を捉えて逃がさない。


「轟くんは捕まえた!あとは爆豪くんだけ!他に敵がいないか、私が確認するからみんな爆豪くんに集中して!」


再び無線のやり取りをする苗字の声が聞こえた。それを聞いて一気に他のヒーロー役が現れる。爆豪もこの数ではさすがに分が悪いと一度身を隠すためにどこかへいってしまった。

それを追いかけていったヒーロー役たち。残ったのは動けない俺と、苗字だけ。


「轟くん、他に敵役はいる?」


「いや、最初のスタート地点にいたのは俺と爆豪だけだった。」


「確認完了!残りの敵は爆豪くんだけと判明!私もすぐ応援に……っ、きゃ!」


隠さなければならない情報だった、と気付いたのは苗字が爆豪を追いかけて駆け出そうとしたときだった。

急いで地面を凍らせて苗字の足と地面を縫い付ける。苗字はそれに気付かず持ち上がらない足に驚いて転んでしまった。

これ以上爆豪の元にヒーロー役を増やしてはならないという作戦2割、俺が苗字と一緒にいて話したい気持ち8割だ。

訓練中だとか、私利私欲がすぎるだとか、あとで爆豪にものすごくキレられるだろうとか、今はどうでもいい。

ただ、苗字と一緒にいられるなら、それだけで。

- 145 -


(戻る)