常闇vs苗字


結果から言えば、飯田くん対塩崎さんはあっさりと終わってしまった。マイク先生の実況しか聞こえてこないから、詳細まではわからないけど、どうやら先制で攻撃を取った飯田くんが、塩崎さんの攻撃をスピードで翻弄し場外へ押し出したらしい。


「負けたらぶっ殺す。」


勝己なりのエールを受け取って控え室を後にする。ステージに上って常闇くんと相対する。

緊張と興奮は最高潮だった。


『次の試合はこいつらだ!一回戦はどちらも瞬殺!今回はどうなるのか、常闇対苗字!』


マイク先生の実況中にこっそりと水蒸気を集めさせてもらう。先手必勝。すでに指示はいっているのかもしれないが、まずは常闇くん自身を止める!


「START!」


合図とほぼ同時に常闇くんには水中ヘルメットのプレゼントだ。ちょうど指示を出すところだったのか、開いた口に水が流れ込む。

その隙にパイプの蓋を開いて次の攻撃に備える。

黒影はといえば、来るはずだった指示が来ないことが不思議だったのか常闇くんのほうを一瞬向いた。

おかげで間合いを楽に詰めることが出来たが、すぐに黒影からの攻撃を受けて後ずさる。しかも、その隙に常闇くんが視界から外れてしまって、ヘルメットから抜け出されてしまった。

げほげほと咳き込む声が聞こえて、急いでもう一度ヘルメットをプレゼントするため常闇くんを見ようとするが、黒影が視線上にいて邪魔で見ることが出来ない。


「いいぞ黒影、そのまま視界を遮って……」


「ええい、邪魔!!」


効果があるかはわからない。けれどやるしかなかったので黒影に水中ヘルメットをプレゼントする。

しかし、呼吸はしていないのかあまり効果はないようで、勢いを殺すことも出来ずにそのまま突っ込んでくる。慌ててよければ、偶然黒影を包む水に太陽光が当たってきらりと反射した。

眩しくて目をつぶってしまって黒影に纏わせた水中ヘルメットは黒影を追尾することなくふわふわと空中に浮くだけの水となってしまった。しかし、どうしてか黒影は一気に力を失ったように弱体化した。


「あれ……そうか、光!」


まだ目がちかちかするが襲ってくる様子のない黒影を不審に思っていれば、水が虫眼鏡の要領で光を集めていたようで黒影が光に照らされている。自分の個性で目がくらんだのは情けないが、偶然とはいえラッキーだ。黒影自身に水を纏わせても仕方がない。ならばと水を一旦取り去ってタンクの水も全て作って空中に巨大な水鏡を作った。

角度を調整して、黒影に光を集中させる。

明らかに弱体化を見せた黒影に、常闇くんの表情が曇る。


「いつも黒影ばっかり戦ってるけど、常闇くんは戦闘苦手なの、かな!」


「くっ……!」


間合いを詰めて一回戦同様回し蹴りをおみまいする。咄嗟に防いだ常闇くんだったけど、後ろに吹き飛んだ。空気中の水分もタンクの水も全部水鏡に使ってしまったから、常闇くんの呼吸を奪うことは出来ない。

反撃を許さないとばかりに猛攻をしかけて少しずつ場外へと近付いていく。


「ほらほら、やり返さないともう外に出ちゃうよ!」


それでも常闇くんは私に手を出してくることはせず、黒影へと視線を送っている。敵を前に視線を逸らすなんて愚策だ。思い切り足払いをしてやれば、バランスを崩して白線を越えてしまった。


「常闇くん場外!苗字さん、三回戦進出!」


ミッドナイト先生の声を聞いて、緊張がやっとほぐれた。視線を上げて水鏡を操り、そのままタンクへと水を詰めていく。もともと満タンにはしていなかったので、空気中の水分も一緒に収めていく。

おかげで空気がカラっとしてしまった。


「あんなに早く見破られると思わなかった。」


「偶然といえば偶然だけどね。」


常闇くんと握手を交わして、二人でゲートを潜る。なにはともあれ、勝ち進めてよかった。

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