いざ、準決勝
応援席へと戻れば、席を立ったときと同じで耳郎さんの隣が空いていたので座らせてもらった。
勝己と切島くんの試合はもう始まっている。
「苗字さん、先ほどの試合すごかったですわ。私は手も足も出ませんでしたのに……。」
「たまたま黒影を弱体化出来たからだよ……個性相性もあると思うし。」
「光が弱点なんて、考えもしなかったわ。」
勝己の起こす爆発音をBGMに先ほどの試合を振り返る。どんな個性にも万能なんて言葉は存在しない。実力だけでなく、相性や運なんかも味方しなければ全戦全勝なんて難しいだろう。
今回の水鏡も、運の結果だ。けれど、自分自身がそうだったように、目くらましとしての効果は高かったように思える。
実戦では敵の弱体化という点において有効な技なのかもしれない。
『切島の猛攻になかなか手が出せない爆豪!!!』
マイク先生の放送で考えるのをやめてステージを見ると、切島くんは個性のおかげでまったく爆破のダメージが入っていないようだ。
これもまた、相性なんだろうか。
けれど、その均衡も長くはもたなかった。
『ああー!!効いた!!?』
突如として切島くんにダメージが入ったかと思えば、あとは一瞬だった。勝己はこうなることを予想しての攻撃だったようで、焦った様子も見られない。
本当に勝己のこういう部分に関しては、尊敬の念すら覚える。
『爆豪エゲツない絨毯爆撃で三回戦進出!!これでベスト4が出揃った!!』
三回戦進出は轟くん、飯田くん、勝己、私の四人だ。私の相手は勝己。相性で言えば私が断然有利のはず。だけど、今日の勝己は調子がいい。
特に、二回戦の対切島くん戦はすこぶる調子がいいようだった。
静かな控え室でゆっくりと作戦をたてられたからだろうか。それとも、久しぶりに私と戦うからだろうか。
油断はしていられない。いくら私が勝己を好きだからって、負けてあげるわけにはいかないのだ。
『準決!サクサク行くぜ。お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!飯田天哉対轟焦凍!!START!』
スタートの合図と共に、両者速攻だ。地面を這う氷を読みきった飯田くんは自慢の脚力で地面を強く蹴って一気に空中から間合いを詰めていった。
轟くんも予想の範疇だったのか、焦る様子もなく飯田くんの蹴りを避けた。しかし、飯田くんはすぐに次の攻撃に入っている。個性の威力も借りてかなり重そうな蹴りが轟くんの頭を直撃する。その威力に会場も興奮してざわざわと騒がしさが増した。
轟くんも負けじと地面を凍らせて反撃に出るが、今最高潮にスピードの乗った飯田くんには追いついていない。
体勢を立て直させる時間も与えずに飯田くんは轟くんの背中を掴んで駆け出した。
あまりにあっという間の出来事で、マイク先生の実況だって追いついていない。これは飯田くんの勝ちの可能性が高いだろう。
そう決め付けた私は準備のために席をたった。ちょうどステージに背を向けたときに聞こえてきたのは、パキパキと何かが凍る音。
まさか、あの状況から轟くんが反撃に出たというのか。
慌てて振り返ったけど、時既に遅く飯田くんが完全に氷付け状態だ。なにがあったのかわからない。ちゃんと見ておくべきだった。
『飯田行動不能!轟、炎を見せず決勝進出だ!』
スピード感のある試合に盛り上がった会場が、次の試合はまだかまだかとはやし立てる。そんな声に後押しされるように急いでステージへと向かう。
久しぶりの勝己との試合。そのための練習だって積んできた。絶対に、負けない。
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