対峙するのは悪党顔


『準決2試合目!幼馴染なんだってよこの二人!手の内を知り尽くした二人!勝利の女神はどちらに微笑むのか!俺は苗字に勝ってほしいぜ!爆豪勝己対苗字名前!!START!』


「まぁ、これが定石だよ、ね!」


タンクの蓋は開けてからステージに上ってきていた。スタートの声とともに勝己の顔を狙って水蒸気を集めていく。けれど、当然勝己はそれを読んでいて私を中心に円を描くように走り始めた。

しかし、距離を保って走っている分私の視界からは外れにくい。視界に入ってさえいればそれでいいのだ。神経を集中させて勝己の顔を狙う。

結論から言えば、勝己はそれさえも見越していた。ほぼ全ての水蒸気を勝己の周囲に集め終えたタイミングで地面を爆破された。勢いよく破壊された地面は砂埃をあげて私の視界を遮る。

大急ぎで砂埃に湿気を含ませ、視界をクリアにさせるため水蒸気を操作していく。お互いに一歩先二歩先を読んでの戦闘。今までの相手より、やっぱり段違いで戦いづらい。


「んなちまちまやってんじゃねぇよ!」


背後から声が聞こえた。振り返る暇もなく背中を思い切り爆破されて吹っ飛ばされる。足元しか見えないが、白線は見えない。まだ押し出されていないことを確認すると、瞬時に作戦を切り替える。

一番警戒すべきなのは勝己の攻撃だ。勝己もこの砂埃で視界が見えていないとはいえ、吹っ飛ぶのは真っ直ぐだ。ならばいつかはこの場所も割れてしまう。

目は見えなくても蒸発は出来るように訓練した。会場全体に意識を向けて観客がヒートアップしてかいた汗を蒸発させてステージの上部へと集めていく。

たくさんたくさん集めて、最後の仕上げだ。手のひらに一部を集中させれば一気に地面へと水圧をかけて砂埃から脱出する。勝己にも居場所がバレてしまうが、まずは空を視界に入れなければならない。

近くから爆発音は聞こえない。砂埃の層を抜けて青い空が見えた。集めた水蒸気を一気に凝縮して水分へと変える。勝己を狙う必要なんて無い。ステージを覆うほど大量の水。それを一気に雨として降らせる。

当然、砂埃は消えて私も、勝己も、ミッドナイト先生すらびしょびしょだ。


『おおーっと!苗字が飛び出してきたかと思ったら大量の雨!!これにはさすがの爆豪もお手上げか!?』


水圧を調整して地面に降り立てば、すぐに自分とミッドナイト先生の水分だけを蒸発させる。勝己は流れてしまった汗を取り戻そうと爆破を繰り返しているが、濡れネズミの今は火花のような可愛らしい爆破しか起こせないようだ。

今しかない。爆破を繰り返している手に今しがた蒸発させた水を纏わせていく。水中ヘルメットならぬ、水中ガントレットだ。これでは汗をかいたところですぐに水に溶けてしまう。ガントレットをつけている限り、勝己の爆破による攻撃は出来ない。1対1だからこそ出来る作戦だ。


「これで勝己の爆破は怖くないよ!」


「……こすい練習してると思ってたらこういうことかよ。」


「なんだ、ばれてたんだ。でも、こうなったらいくら勝己でも逃げられないでしょ。」


油断禁物。ここまでは上手く行ったもののまだここから勝己を場外に出さなくてはならない。

むしろ、ここからが本番なのだ。

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