勝ったのは
「すげーな……あの爆豪相手に持久戦持ち込むんか。」
ステージではかっちゃんと名前ちゃんが白熱した戦いを繰り広げていた。その前の轟くんと飯田くんの戦いはあっという間に終わってしまったのもあって、長引きそうな二人の勝負に会場は盛り上がっている。
2回戦でかっちゃんと戦った切島くんが、持久戦にもつれこみそうな名前ちゃんの攻撃を見て、ぼそりと呟いた。
「かっちゃんは長期戦になって汗を掻けば掻くほど強力になる個性だけど、名前ちゃんは周囲にある水分が多ければ多いほど武器が増える個性だから。多分かっちゃんの全身の汗を武器にどんどん変えていく作戦なんだと思う。」
「なるほどな……。爆豪にとっちゃ相性最悪ってところか。」
「うん、今みたいに名前ちゃんはかっちゃんの個性を無力化することも出来るみたいだし、これだけ人が集まっているなら集められる水もたくさんあると思うし……。」
海や川のような水源があるわけではないし、雨が降っているわけでもないけど、これだけの人がいれば武器には困らないだろう。
それに、さっき名前ちゃんが降らせた大量の雨のおかげで、コンクリートが濡れて滑りやすくなっている。爆破が使えなくなったかっちゃんは多分個性なしの肉弾戦に持ち込むだろう。
でも、個性が使える名前ちゃんだ。いくらかっちゃんでもすべりやすいステージで考えなしの特攻は出来ないだろう。
それこそ、昔の僕と、かっちゃんのような力の差があるといっても過言ではない。
先に動きを見せたのは名前ちゃんだった。かっちゃんに向かって何度も攻撃を仕掛けている。でも、それは全てかっちゃんに防がれてしまっている。
かっちゃんもやり返すけど、すぐに名前ちゃんは逃げてしまって二人とも有効打を与えられていない。
この勝負、どちらが勝ってもおかしくない状況だ。
*
「そろそろ諦めて参ったって言ってもいいんだよ!」
「誰が言うか、クソが!!てめぇこそあとで泣き喚いても知らねぇぞ!!」
「勝己こそ!参りましたもう止めてくださいって泣いてもしらないからね!」
「誰が泣くか!!!死ねや!!!」
まるで組み手をするように攻撃しては防がれ、攻撃されては防ぎを繰り返しながら互いに言葉が荒くなっていく。ほんの少し昔に戻ったようで、どこか心地いい言葉の応酬に調子が上がっていくのを感じる。
水圧の勢いと、地面の滑りを借りて勢いよく勝己に蹴りを入れる。想定外の勢いだったのか、勝己はガードしたものの押し負けてステージの端へと滑っていく。
この隙を逃してはいけない。すかさず第二撃を入れるために体勢を低くとるが、勝己もやられっぱなしではなかったらしい。顔目掛けて水を纏ったままの手が振りかぶられる。
人間の本能というのは、無情なもので咄嗟に目を閉じてしまった。間一髪一歩後ろへ下がれたので攻撃自体は避けられたが、勝己の手が視界から消えてしまった。
ボンッ、ボンッ、ボンッ!と何度も爆発の音が聞こえて、慌てて目を開いたが時既に遅し。勝己の手に残った僅かな水も大きな爆発音と共に散ってしまった。
再び纏わせようと集中したが、もうそこに勝己はいなかった。
「見られてなきゃどうってことねーんだよ!!」
背後から声と共に爆発音。場外ギリギリまで押し出した勝己を追ってきた私もギリギリにいたせいで爆風に押し負けて場外へと吹っ飛ばされてしまった。
「苗字さん場外!爆豪くん決勝進出!!」
『優勢に見えていた苗字が負けたー!!??やっぱり女子にも容赦なしか爆豪!残すは決勝!優勝はどっちだー!!』
へんに吹っ飛ばされたせいで受身がとれなかった。へろへろのまま突っ伏してたら、目の前には手。
「さっさと立てや。んでいい加減俺の水も蒸発させろクソが!」
その手は勝己のもので、手を借りて立ち上がった。勝己の手を握ったのは初めてかもしれない。こんなに大きくて、しっかりした手だったんだ。
しかし感傷に浸る間もなく怒鳴られてしまったので、急いで勝己が纏った水を蒸発させると、勝己は手を振り払ってずかずかと戻っていってしまった。
手にはまだ、勝己のぬくもりが残っていた。
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