今年の優勝者


「苗字!惜しかったな!!」


「いけると思ったんだけどなぁ……。」


「やっぱりかっちゃんはすごいね。」


「誰だって顔面殴られそうになったらあぁなるって!」


スタンドへと戻れば、みんなが口々に慰めてくれた。相変わらず勝己は敵を簡単に作っていくなぁと思いながら空けてくれていた席へと腰掛けた。


『さァいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦轟対爆豪!!!今!!スタート!!!』


タイミングよく開始された勝己と轟くんの戦い。しかし、その試合は悠長に見る、なんてことは出来なかった。


『いきなりかましたあ!!爆豪との接戦を嫌がったか!!早速優勝者決定か!?』


視界には氷しかない。勝己がどうなったのかはここからではわからないが、この初手を読んでいないわけがない。空中へ逃げるにも、瀬呂くん戦の時の範囲攻撃を出されれば逃げきれるはずもない。

ならば、逃げるのではなく迎撃……!!

その予想はあたっていて盛大な爆発音とともに勝己は氷を砕いて轟くんの目の前に現れた。

勝己が現れてから第二撃を構えた轟くんだったが、反射神経が高い勝己にそれは遅すぎる。案の定勝己に掴まれた轟くんは思い切り場外へ向かって投げられている。

けれど、そこは腐っても轟くん。氷壁を瞬時に作り出してその上を滑っていく。空中だというのに、勝己は器用に攻撃を避けて連続攻撃をおみまいする。

それは、的確に轟くんの“左側”を狙っていて氷結での攻撃を許さないような攻撃だった。

多分、勝己は出久に見せた炎での攻撃を、自分にも見せろといいたいんだろう。出久にだけ見せた攻撃を、自分にも使わせることで、出久に負けたくないという気持ちが少なからずあるんだと思う。

ちらりと出久を見ると、その真意には気付いていないようで、不安そうに試合の流れを見つめている。


「てめェ虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!!俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ!デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!!」


スタンドまで聞こえる大きな声。それは勝己の悲痛な叫びに私は聞こえた。轟くんを煽るような言葉は出久にも、轟くんにも刺さったようだ。特に出久は隣で表情を歪めている。

勝己は全力で轟くんに向かってる。その証拠に今まで以上に勢いを付けて轟くんに攻撃しようとしている。


「負けるな、頑張れ!!!」


隣で出久が声を張り上げた。轟くんを応援する声に、私も奮いたたされた。


「勝己!!思いっきりやっちゃえ!!!」


その瞬間、轟くんの体が炎をまとったように見えた。それがどうなったのか、勝己の強力すぎる攻撃があたり一面を爆風と砂煙で覆われて見ることは出来なかった。


『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが果たして……』


徐々に視界が戻ってきてわかったのは、轟くんが吹き飛ばされて、砕けた氷の山に倒れていることだけだった。

勝己はなにか納得がいっていないようで、気絶している轟くんの胸倉を掴んでいる。すかさずミッドナイト先生が強制的に勝己を寝かせて止めに入った。


「轟くん場外!!よって――……、爆豪くんの勝ち!!」


『以上で全ての競技が終了!!今年度雄英体育祭1年優勝はA組爆豪勝己!!!』


優勝が眠りこけているなか、会場は派手な戦いの末勝利を収めた勝己に大声援を送った。二人は医務室に運ばれていって目が覚め次第閉会式を行うそうだ。

宣言通り優勝した勝己だったが、何かが気に入らないっぽかったので、閉会式はなんだか荒れそうだった。

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