いざ、職場体験
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ、着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」
「はーい!!」
「伸ばすな、「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け。」
相澤先生に指示されて一人、また一人とホームへと消えていく。噂によると、飯田くんはお兄さんのインゲニウムが襲われた地、保須へと職場体験に行くらしい。
「轟くんはエンデヴァーさんのところだっけ。気をつけてね!」
「あぁ。苗字も気をつけろよ。戦闘系のヒーローじゃないって話だが、何があるかわかんねぇしな。」
轟くんに心配してもらえた……!!その事実だけで舞い上がってしまいそうだ。緩んでしまった頬をぱちんと叩いて気持ちを切り替える。私は新幹線組なので新幹線のホームへと向かう。数人同じ方面らしく、既に固まっている。
「常闇くん!緑谷くんもこっちだったんだ!」
「苗字さん!僕は常闇くんとは乗る新幹線が違うんだけどね。」
「常闇くんはどこまで?」
「九州だ。」
「じゃあ私と同じ新幹線かも!私は大阪まで行くんだよね。」
みんなでわいわいしながら新幹線に乗り込んだ。緑谷くんは1本後の新幹線らしく、先にお別れだ。なんだか修学旅行みたいで楽しいけど、それは多分今だけだ。
私の向かうヒーロー事務所は後方支援、それも捕縛をメインにしているらしい。大々的に活躍するのは前衛がほとんどだし、相澤先生のようにあまりメディアには出ないということもあって名前が知られている有名なヒーロー、というわけでもない。
事実、クラスのみんなは誰一人として名前を知らなかった。あの緑谷くんですら、首をかしげていたくらいだ。
また、そのヒーローは捕縛だけでなくその捕縛術を使って災害からの人命救助も行っているらしい。そういった面もあって私はここに決めたのだ。
敵を捕まえるのはもちろんだが、私は助けられる人たちの命を、出来るだけ助けたい。私の個性は、それが出来るはずだから。
「苗字、そろそろ大阪だぞ。」
「えっ、ほんとだ!ありがとう常闇くん!常闇くんはここで乗り換えだっけ?」
「あぁ。気をつけてな。」
「常闇くんも!」
別のホームへと向かった常闇くんを見送りながら、ぐっと拳を握り締めた。私の向かう事務所まで、あともう少し。在来線へと乗り換えて、事務所に向かうまでにこの大阪という地を少しでも知っておこう。
東京ほどではないが、まず人が多い。そして、そこかしこで喧嘩が起きている。ヒーローがいないので私の単独行動は出来ないが、こんなところでのヒーロー活動なんて、体がいくつあっても足りないのではないだろうか。
びくびくしながら最寄駅へとついた電車を降りて事務所へと向かう。小さなビルへと入っていけば、相棒の方が1階で待っていてくれた。相棒の方に連れられて事務所へとあがっていく。緊張しすぎて右手と右足が一緒に出てしまいそうだ。
「そんな緊張せんで大丈夫やで!みんな気のええ人やから。」
「は、はい……!」
相棒の方に元気付けられて事務所の扉を開いた。一番奥にいるのがお世話になるヒーローだろうか。優しそうな女性でよかった。
「いらっしゃい。雄英体育祭見とったで。ウチの個性と相性良さそうやし、来てくれて助かるわ。とりあえず新幹線疲れたやろ。そっち座っとき。まずはその個性がどんなもんかウチに教えてや。」
見た目からは想像出来なかった関西弁でまくし立てられてちょっとびっくりしてしまった。私が硬直したのがわかったのか相棒の方が苦笑いしながらソファまで連れて行ってくれた。
いきなり前途多難な職場体験に緊張が収まることはなかった。
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