示される可能性
「来る途中に喧嘩ばっかり見た?」
「は、はい。大きな声で怒鳴りあいながら頭を殴ったりしていて……。」
「苗字ちゃん、大阪初めて?」
「そうですけど……、」
「そんならそれは多分喧嘩ちゃうで。多分しばかれてる方がボケて、ツッコミまれてただけやろ。」
相棒の方が豪快に笑いながら頭をぽんぽんと撫でてくれた。文化の違いがあるのはわかっていたけど、あれが喧嘩じゃないなんて、まずはそれを見分けるところから頑張らなければいけないかもしれない。
「で、肝心の個性はテグス、やったな。」
「はい。色、硬さ、はある程度なら操れます。」
わかりやすくピンクに色付けたテグスをするりと伸ばす。ヒーローと相棒の方々は興味津々に見たり触ったりしている。
「今マックスで硬くしてどれくらい?ハサミとかで切れちゃう?硬さとか色とか変えるのは出したままでも出来る?個性自体に感覚は?触られてるのがわかったり、切れたら痛いとかある?」
「えっと、ハサミはやったことないんですけど、多分切れちゃうと思います。切れたりしても痛くありません。触られてるのもわからないんで、感覚はないんだと思います。あ、でも切れたらわかります。あと、硬さや色は出す前にしか決められません。」
矢継ぎ早に飛んできた質問をどんどん返していく。私の返答を聞いては少し黙って考えて、また質問されてを何度か繰り返していた。
そして、一つの結論が出された。今の私の出せる強度だと、子供とかろうじて女性が助けられる可能性がある程度だということ。敵の捕縛も出来なくはないけれど、刃物類の個性や増強系、硬化系なんかの相手には全く歯が立たないであろうこと。
それから、お母さんの個性を受け継げているなら、それを活用して、更なる硬度を得られるであろうこと。
「お母さんの……個性。」
「普通は親から子へと、似たような個性になることが多いんや。可能性はあると思う。とりあえず、今そんなレベルやし、チンピラの喧嘩やらパトロールが主になるかもな。行くで!着いてきぃ!」
結論が出たところで私が出来る範囲でのお手伝いをさせてもらえることになった。基本的にはパトロールに連れて行ってもらって大阪の魅力を教えてもらいながら、ヒーローとしての着眼点で町の見方を教えてもらった。
鍛錬では基礎的なトレーニングから、ヒーロー直々に個性を活用した体術、他のヒーローとの協力の仕方、自分の個性の有効活用。学校ではこんなに個々で見てもらえないという部分を徹底的にしごいてもらった。
職場体験中は事務所近くのビジネスホテルをとってもらったので、そこで過ごしながら個性の強化を図った。
町の人々も親切で、最初はあんなに怖かったのに日を追うごとに楽しくて仕方が無かった。
わからないことがあれば、ヒーローも相棒の方々も、すぐに答えてくれる。学校にいるよりも、充実しているかもしれない。
そんな思いで今日もパトロールをしていると、不意にスマホが震えた。こんな時間の連絡なんてあまりに不自然で、ヒーローに断ってスマホを確認すれば、保須のとある路地の位置情報だけが送られてきていた。
どんどん既読が増えていくなか、不安が襲ってきた。位置情報を送ってきたのは緑谷くん。あの緑谷くんがそれだけなんて、なにかあったのかもしれない。
けれど、今ここにいる私がなにかを出来るはずもなく、ただ祈るしか出来なかった。
だって保須はあのインゲニウムがヒーロー殺しステインに襲われた場所――。
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