指名票の差が実力の差


二日間の休日は特になにをするでもなく過ごしてしまった。昨日は勝己ママに誘われて、私のために休みをとったという家族総出で勝己の家に行ったら、勝己が未だにすこぶる機嫌が悪かったので、からかったら殴られた。

言い返したら勝己も言い返してきて手が出る足が出る大喧嘩。勝己ママが止めるまでその喧嘩は収まらなかったが、最近勝己がいやに大人しかったから久しぶりの感覚にすっきりしてしまった。

それは勝己もだったようで体育祭での苛立ちをようやく発散できたようだ。

朝も軽口を叩きながらいつも通りに登校して、席に着いた。体育祭の様子を見ていたクラスメイトたちはみんなそんな勝己を見て少しほっとしていたようだ。

みんな登校中に道行く人たちに声をかけられたらしく、その話で持ちきりだ。私たちはというと、優勝者と3位という、まぁ二人とも表彰台に上った組み合わせだったせいで驚くほど視線だけは感じていた。

けれど、あの暴れまくる勝己すら全国放送だったせいなのか声をかけてくる勇者はいなかった。


「おはよう」


チャイムと同時に入ってきた相澤先生は既に包帯が取れていて、この二日でかなり回復したようだ。梅雨ちゃんが包帯のことを口にしたところ、相澤先生曰く処置が大袈裟すぎたとのこと。


「んなもんより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ。「コードネーム」ヒーロー名の考案だ。」



「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」


コードネーム!今まで考えたことがなかったわけではないが、実際決めるとなると色々と考えてしまう。曰くこの体育祭でプロから指名をもらった人たちを含め全員が職場体験に行かせてもらうらしい。

その指名数はというと、勝己は優勝したというのに3556票。2位だった轟くんは4123票と負けている。

私は1343票と大きく下回っている。


「1位2位逆転してんじゃん。」


「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな。」


「ていうか、将来性あっても拘束されてすら暴れまわるような問題児を職場体験とはいえ事務所に入れて大問題起こされるほうが嫌だよね。」


「ビビってんじゃねーよ、プロが!!つーか問題なんて起こさねーわ!!ふざけんな!!」


「でも苗字も4桁ってすげーな。」


「でもあの勝己とですら2000票以上負けてるんだよ!いい試合したと思ったのにー!」


「やっぱ指名もらうには本選かー。予選なんてあってないようなもんだよなー。」


「実力社会こえー!!」


わいわいと盛り上がるなかミッドナイト先生も現れて発表形式でコードネームを決めることになった。配られたフリップとにらめっこをする。

しかし、そんなことをしていてもなにも思いつかない。既にペンを動かしている人たちも少なくない。どうしよう。

横目で勝己を見れば、ペンが動いている様子はなくて少し安心した。次々と発表されていくコードネームを参考にうんうんいいながら必死に頭を捻る。

フロッピーに烈怒頼雄斗、イヤホン=ジャックにテンタコル、セロファン。次々と出てくるコードネームに焦りが出てくる。轟くんの名前にはちょっと驚いたけど。

でも、それ以上に驚いたのが勝己だ。いつの間に書いてたのかわからないけど、爆殺王って。ミッドナイト先生にも即ダメ出しをくらっている。

ちょっと勝己のばかみたいなコードネームで心が軽くなった。そのおかげか、ようやく頭がうまく回り始めてペンを持つ手を動かすことが出来た。

決めた。私のコードネームは――


「アパラーラ!竜泉に棲むと言われている竜王の名前ね。かっこいいじゃない!」


ミッドナイト先生の好評も得たところで勝己に視線を送ると自分は却下されたからかギロリと睨まれた。こんな状態の勝己なら次に出してくるのも却下くらいそうな気がする。

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