向かった先は


あのあと爆殺卿なんていうほとんど変わらないコードネームを出してきたものだから声を出して笑ってしまった。

そのせいで帰り道も不機嫌で何度も足を蹴られた。その度に転びそうになる私を見てほくそ笑んでる。性格の悪いやつめ。


「そういえば勝己あれだけ指名きてたなら職場体験選び放題じゃん。どこ行く予定なの?」


「No.4から指名きてた。そこ考えてる。」


「No.4って言ったら……ベストジーニストかー。なら私はエンデヴァーのところにしようかなぁ。」


「は?てめぇエンデヴァーから指名来てたんか。」


「いいでしょ。」


正直轟くんじゃなくて私に指名が来たのは驚いた。轟くんの実力はわかりきっているから、そうじゃない人への指名をしたのかな、と勝手に予想してラッキーだと気持ちを落とし込んだ。

No.1ヒーロー、オールマイトは雄英で先生をしているから職場体験の候補にはあがらない。なので、実質体験にいける中では一番いい体験先だといっても過言ではないだろう。

私の言葉がきっかけになったのか、勝己は考えているだけだったらしいベストジーニストのところへ行くことを決めたようだった。

でも、ベストジーニストと勝己の個性は系統も全く違うのに、本当に大丈夫なんだろうか。





「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ、着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」


「はーい!!」


「伸ばすな、「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け。」


「じゃあ勝己、絶対強くなって帰ってくるから次の訓練コテンパンにしてやるから!」


「誰が名前なんかに負けるかよ。また吼え面かかせてやるわ!」


余裕満々の笑みを浮かべる勝己に背を向けて職場体験に思いを馳せる。同じ方面へ向かう人たちと電車に乗って高鳴る胸を落ち着かせるようにコスチュームを握り締めた。

見知った顔はいないかときょろきょろしていたら、背後から声がかかって誰かと思えば轟くん。今日から私はあなたのお父さんに鍛えてもらいます。


「苗字もこっちなんだな。」


「うん、轟くんもこっちなんだね。」


どこに行くかは聞かない、聞けない。轟くんの前でエンデヴァーのところに行くと言うのはなんだか気恥ずかしくて、聞かれないためには聞かないのが一番だ。

幸い轟くんとは一言二言交わしただけで、それ以上会話が進むことは無かった。

ガタゴトと揺れる車内で一人、また一人と雄英の制服が消えていく。そんななかで私の降りる駅のアナウンスが聞こえた。ドアのほうへ体をむけたら、轟くんも動いた。

この駅の周辺に二つも事務所はあっただろうか。エンデヴァーの事務所の大きさに恐れ戦かないヒーローがいたなんて驚きだ。

二人で駅に降り立って、二人で改札に向かう。勝己以外の男の子と二人でこんなに近くで歩くことなんてなかったからいろんな意味で緊張してしまう。


「じゃあ俺こっちだから。」


「え、轟くんも?私もそっちで……。」


どこか気まずい空気のまま無言で事務所への距離を縮めていく。もしかして轟くんもエンデヴァーのところなんじゃ?と思いつつも切り出せなくで、結局二人してエンデヴァーの事務所の前で足を止めるまで会話はなかった。


「えっと……轟くんも、?」


「……苗字もだったのか。ここら辺に事務所があったのか記憶がなかったのはそういう……。」


お互いの目的地がわかったところで、少しだけ緊張は和らいだ。知り合いが一人いるというだけで、なんだか頑張れる気もしてきた。

勝己よりも絶対に強くなってやる。

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