いざ救助レース


「おはよー。」


「苗字おはよー。」


「名前ちゃん!おはよー!」


一週間の職場体験が終わって教室に入るとみんながそれぞれの職場体験の話をしている。そんな中で私は鞄を置いて真っ直ぐ轟くんのもとへ向かった。

そこには既に緑谷くんと飯田くんがいて話していた。後に知った3人目の雄英生は飯田くんだったから、ヒーロー殺しの話でもしているんだろうか。


「轟くん!大丈夫だった?ケガもしたって聞いたけど……。」


「あぁ、大丈夫だ。俺より飯田のほうがひどかったしな。」


「飯田くんはまだ完治してないんだよね?もう動いちゃって大丈夫なの?」


「あぁ!大丈夫だ!この通りなにも問題はないからな。」


ビシッと突き出された腕はキレッキレで見た目からすれば普段となんらかわらないようで安心した。


「俺ニュースとか見たけどさ。ヒーロー殺し、敵連合ともつながってたんだろ?もし、あんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾっとするよ。」


「でもさあ、確かに怖えけどさ。尾白動画見た?アレ見ると一本気っつーか、執念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」


「ちょっと上鳴くん……!そういうのは今は……。」


上鳴くんの言いたいこともわからなくはない。私だって、轟くんたちが巻き込まれてなければそう感じたかもしれない。それだけ、ヒーロー殺しは信念を持っていたし、それが伝わってきた。


「いや……いいさ。確かに信念の男ではあった……。クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は、信念の果てに“粛清”という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ。」


飯田くんの決意にも似た言葉が心に染み渡っていく。轟くんは俯いてなにかを考えているようだった。

轟くんが言葉を発することはなかったから、なにを考えているのかはわからなかったが、本当に無事でいてくれてよかった。





「はい、それじゃあ次の組位置について!」


今日の授業は救助訓練レースらしい。どこかで救助信号を出したオールマイト先生を誰が一番に助けられるかを競うというものだった。

職場体験の訓練の成果を試すには、もってこいだ。最初の組は機動力の高い5人が選出されたこともあって、みんなの注目が集まった。

中でも目を奪ったのは緑谷くんで、職場体験に行くまでの危なげな個性の使い方を改めたのか、正しい使い方を身に着けたのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

けれど、途中で滑り落ちて地面とこんにちはしてしまったので、最終的に勝ったのは瀬呂くんだった。


次の組は私と爆豪くん、峰田くんに青山くん、梅雨ちゃんの5人だった。正直個性的に有利なのは爆豪くんだ。けれど、私だって負けていられない。訓練の成果を120%発揮してやる。


「START!」


掛け声と同時に全員が走り出す。爆豪くんは即座に爆破を繰り返して空中へ。私も張り巡らされた管にテグスを巻きつけて一気に空中へ。信号が発された場所を確認すると同時に、他に人がいないかを確認する。

空中にいるのは爆豪くんだけだ。真っ直ぐオールマイト先生がいるであろう場所へ向かう爆豪くんに右手のテグスを巻きつけて、左手のテグスはさらにその先へ。

レースというくらいなのだから、妨害だってありだろう。私以外が敵。敵よりも先に被害者を助けなければいけない場面なんて、これから先山ほど出てくるだろうから。


「クソが!離せや!」


「目下一番の敵は爆豪くんだから嫌!」


グンッと後ろへと思い切り下げたつもりだったのだが、爆豪くんの生み出す推進力もなかなかのもので、前進しているはずの私と距離が全く開かない。

これ以上は無理なのかと諦めかけたとき、思い出したのはヒーローの言葉。


相手のことを観察しなさい。どんな個性にも得手不得手はあるもんや。

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