これはデートですか?


日曜日。木椰区ショッピングモール。快晴。

人が溢れかえる条件がこれでもかと敷き詰められた本日。誘われるがままに勝己と二人でこの場所にいるわけなんだけど、人の多さに勝己のイライラが頂点に達してしまいそうだ。

ほんとになにしに来たんだ。


「こんなとこまでわざわざ何しに来たの?」

「知らねぇ。」

「は!?知らないってなに、ちょっと待ってよ!」


木椰区ショッピングモールはなんでもあるが、ここでしか買えないものというのは実は少ない。

いくつものお店が入っているから、いろいろ見たいときはここだけですむ、というのが利点の一つなのだ。

人も多いので、勝己みたいなタイプは来たがらないと思っていたのに、わざわざ来るということは目的があるわけではないのか。

期待していたデート、な様子は一切感じない。
どちらかというと、買い物に来た主人と荷物持ちのような印象だ。


「勝己待ってってば、早い!」

「てめーがトロいだけだろうが。」

「こんな人ごみでスタスタ歩ける勝己がおかしいんだってば!」


器用に人ごみを縫って歩く勝己は、私のことを気にしながら歩くということはしてくれない。しかも今日はちょっとデートみたいだなって浮かれてたから、他の女の子たちと比べると随分低いけれど、ヒールを履いてきてしまった。

前を歩く勝己の背中を追いかけながら、時々お店のショーウィンドウを眺める。どうせならもっとゆっくりショッピングがしたい!!



不意に勝己が向きを90度変えた。視線の先にはスポーツショップがある。なんだ、ちゃんと見たいものあるんじゃないか。


「なに買いに来たの?」

「こっち見んな、クソが。」


なに、反抗期なの?え?それともほんとに荷物持ちなの?
真っ直ぐインナーが売っているコーナーに向かった勝己は手当たり次第に商品を見ていく。

私もちょうど欲しかったしお店の中なら別行動でいいだろうとレディースコーナーに足を向けたら勝己がすかさず背負っていたリュックを引っ張った。


「どこ行くんだよ。」

「ここメンズだし……レディース見ようかと?」

「勝手にうろちょろすんな。」


リュックを握る手が離される様子はない。ここにいろってか。

いくつか気にいったものがあったのか、商品を手にした勝己はそのままレジへと向かう。当然、私は目の届かない方向に引き摺られた。


「ちょ、ちょ、ちょ、危ないから離して!どこも行かないから!」


さも今気付きましたみたいな表情でパッと手が離された。日を追うごとに勝己の変が加速しているような気がする。いや、確実に加速している。

スポーツショップで買い物したあと、また勝己は人ごみのなかを器用に縫って歩く。荷物は持たされなかった。心なしかさっきより歩みは遅い。

おかげでウインドウショッピングがさっきより出来るようになったので、きょろきょろと周囲をいろいろ見てしまう。

そんな歩き方をしていたものだから、なにかに躓いた。人の足だったらごめんなさい!と心の中で謝りつつ勝己の背中にダイブする。

ふわりと鼻腔を掠めるのは勝己特有の甘い香り。

勝己に抱きついてしまったあの時を思い出して僅かに頬が熱くなる。やばい、顔赤いんじゃないかな。


「おいコラ、名前。ちゃんと前見て歩けや。」

「ご、ごめん。ちょっとあのお店のスカートが可愛くて……?」


顔を上げれば目の釣りあがった勝己と視線があった。視線があった瞬間は苛立ちが見て取れたのに、すぐに逸らされたし、好奇心に負けて顔を覗きこめばまた不思議な表情をしていた。すぐに顔面を手のひらで押されたので、よく見えなかったけど。


こっち見んな、とかクソが、とか聞こえてくる勝己の顔をもう一度覗く気にはあまりなれず、背中ばかりを見ていたらまた躓いた。

今度はちゃんと前を見ていたので勝己の背中に手はついたけど、ぶつかってないし怒ってない……よね?

恐る恐る視線をあげればいつもより勝己の耳が赤い気がする。

照れて……くれているんだろうか。それとも、暑がりの勝己はこの人ごみで体温があがってしまったのだろうか。


その答えはわからず、結局このあとどこのお店に入るでもなくショッピングモールを後にした。

最近の勝己と一緒にいると、勘違いが暴走しそうで嫌だ。

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