いつも通りを求めて


朝、いつもより1時間早い起床。

カーテンの隙間から家の前を確認。

当然、まだ勝己はいない。来るかはわからないが、来られたらまた勘違いをしてしまいそうだから、今日はいつもより早く出るんだ。

急いで着替えて、朝ごはんを食べて、歯を磨いて、外をチェック。よし、いない。


「行ってきます。」


誰もいないので返事はないが、日課だ。挙動不審になりながら念には念をいれて、あの曲がり角を使わない道を行く。少し遠回りだが、家を早く出ているし、大丈夫だろう。出来れば電車も1本はやいものに乗りたい。

入念に通学したおかげで、勝己には会わなかった。よかった。教室に入っても、まだ勝己はいない。いるのは八百万さんと飯田くん、轟くんだけだ。


「おはようございます。今日は爆豪さんと一緒ではありませんのね。」

「おはよう、八百万さん。あー、うん。ちょっとね。」

「喧嘩でもしましたの?」

「なにっ!?喧嘩だと!?」

「あ、飯田くんもおはよ。轟くんも。」

「あぁ。」


いつもと違う朝は少しドキドキした。飯田くんはときどき話すけど、八百万さんと轟くんはほとんど話したことがない。

2人とも推薦だし、個性把握テストのときもワンツーフィニッシュのすごい2人だ。

今日の授業内容だとか、ちょっとした世間話をしていれば続々とクラスメイトが登校してきた。そのなかに勝己はいない。


「名前ちゃんおはよ!」

「お茶子おはよー!あ、出久もおはよ!」

「おはよう!あれ、今日かっちゃんは休み?」

「え!?あ、いや、えーと……」


私がいるのに勝己の席に誰も座ってないし、鞄もかかっていないのを見たのだろう。そりゃ休みだと思うよね。

うまい言い訳が思いつかずモゴモゴしていると運悪く勝己が登校してきた。
勝手に放置したとはいえ、ちょっと遅刻するんじゃないかと心配してたが、ぎりぎり間に合ったようでよかった。

登校してきた勝己をちらりと見ると、思い切り睨まれた。自業自得とはいえ数日振りに睨まれると結構怖いな。

出久はなにかを察してくれたのか、それ以上なにも言わないでいてくれたから、私はそそくさと自分の席に戻った。今日ばかりは勝己と遠く離れたこの席に感謝だ。


それからはもう必死だ。休み時間になる度にすぐにトイレにいったり、お茶子に話しかけたり。

お昼になったら、もうそれこそ鐘と同時に立ち上がって財布を探っているお茶子を急かして引っ張って、わざわざ混んでるエリアを狙って座りにいった。


「もー、なんなん?今日の名前ちゃん変やで?」

「うっ……ごもっともで……。」


お茶子に言うか、悩んだ。自分でも思うが、ヒーローになりたくてみんな頑張ってるのに、そんなときに恋愛だのなんだので悩んでるなんて、そんなにヒーローを甘く見るなと叱咤したくなる。


「ごめん、うまく伝えられる気がしない……。」

「……どうしようもなくなったら言うてな?」


お茶子が追求してこなくてよかった。ごめんね、落ち着いたらちゃんと説明するから……!

お茶子に無理を言って、お昼休みの時間ギリギリまで食堂で粘った。

あとは帰りに捕まらないようにするだけだ。一番危ないのがこのタイミング。頑張らないと。

教室に戻ってみたら勝己のイライラが手に取るように伝わってきた。触らぬ神に祟りなしとばかりにみんな遠巻きに見ている。

やばい、これは帰りのミッションを失敗すると命もないかもしれない……。

それほどまでに勝己の機嫌は最高潮に悪かった。

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