In how long?


時刻は午前9時。待ち合わせの一時間前。準備は整えた。あとは待ち合わせ場所に行くだけだ。

あまり早く行きすぎても、待ちくたびれた状態で名前とデートだなんて失礼にも程がある。使い慣れたスマホを操って、検索をかける。

【デート 待ち合わせ 何分前】

なるほど、15分前か。待ち合わせ場所まで10分だから…キリよく9時30分に出るか。


そわそわと落ち着きのない様子で時計と鏡を交互に見るのは仕方のないことで、あまりにも頻度が高かったのか、異常なほど時間が経つのが遅く感じる。



あぁ、早く名前に会いたい。



はやる気持ちをどうにか押さえ込んだが、時刻はまだ9時10分。この調子なら待ちくたびれるなんてことはなさそうだ。予定よりも20分早いことなど気にせず、家を出た。





10分でつくと予想していた待ち合わせ場所。はやる気持ちが足を早くさせたのか、思っていたよりも早くついた。


時刻は9時17分。待ち合わせ時刻まであと、43分。


当然名前は来ておらず、駅へと向かう人、駅から出てくる人を尻目にまだかまだかと時刻を確認する。

腕時計を見ても、駅前広場の時計を見ても、時刻はなかなか進まない。これでは家にいるのとなんら代わりがなかった。

気持ちを落ち着かせるためにコンビニでも行ってコーヒーでも買うかと考えたものの、買いに行っている間に名前がきて、待たせてしまったらと思うと動く気にもならなかった。


そんな時刻はまだ午前9時22分。待ち合わせまであと、38分。




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「ねぇ、洋服変じゃない?かわいい?」

時刻は午前8時30分。前日から用意していた服を身に纏って、普段はしないメイクをうっすらとして、鏡を前に右往左往してみるも、見慣れたせいか自信がだんだんと持てなくなってくる。

せっかくの日曜日だというのに、出勤だというお父さんの前でくるくると回ってはもう何度目かの質問を投げ掛ける。

かわいいよ、大丈夫。そう言ってはもらえてもたった一人の娘だ、身内贔屓になってるんじゃないかと、またクローゼットをひっくり返す。

大丈夫、まだ時間はある。轟くんにかわいいって思ってもらえる服装を、探さなくては。



うんうん唸っていれば部屋の外から行ってくるねと、お父さんの声が聞こえる。時間を忘れて服を選ぶのに夢中になっていたようだ。


時刻は9時20分。待ち合わせまであと、40分。


轟くんは完璧な人だ。時々天然な部分が見えるものの、基本的には完璧な人だ。だからきっと、待ち合わせの10分も前になったら来るだろう。

轟くんを待たせるわけにはいかない。余裕をもって20分前には行こう。

ならば、家を出るまであと10分。もう服を悩んでいる暇などない。お父さんの言葉を信じて今日はこのワンピースでいこう。

メイクもセットも終わらせてしまっていたので、そうと決まれば早かった。可愛さを重視したがために容量の少ない鞄に必要最低限のものをいつもより何倍もきれいに詰め込んで、鏡の前で最終チェック。

あぁ、早く轟くんに会いたい。

用意を終えれば待ち合わせ場所に向かう。時刻は午前9時27分。




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名前の家の方角から、目を反らせなかった。気にしていない風を装っても、そちらから来た人が名前ではないかと反応してしまう。

違うとわかった途端の落胆ぶりは、誰にも見せられない。それほどまでに、名前を待ち望んでいた。


名前かと反応すること13人。時刻は9時35分。待ち合わせまであと、25分。


ぱたぱたと走ってくる人影が見える。オレの背後では電車がまもなく発車するようで、アナウンスが聞こえてくる。心のなかで乗り遅れないよう頑張れよと言っていれば、人影は目の前で止まった。

肩で息をする女性は、間違いなく名前だった。


「ご、ごめ…早めにきたつもり、だったんだけど…」


余程急いだのか、息も絶え絶えに言葉を発し、走ったせいかほんのりと紅が刺す頬に視線がいってしまう。


「悪ィ、急がせちまったか。」

「早めに…けほ、来ようと思ったら……轟く、見えて、」


何度も噎せる名前の頬に自然と右手が伸びた。思いきり走った頬はほんのり熱を持っていて、オレの氷を扱う右手は心地いいのか、頬を擦り寄せる名前を見て、自然と笑みがこぼれてしまう。


「…落ち着いたか?」


幾分か呼吸の整った様子を見ていれば、視線が絡み合った。あんなに待ち望んでいたのに、どこか気恥ずかしくて、すぐに反らしてしまった。


「ごめんね、もう大丈夫。」


オレは反らしてしまった視線を、名前はまだ投げ続ける。見慣れないメイクも、初めて見る私服も、すべてが可愛い。

まだ始まったばかりだというのに、今日は帰したくない。



時刻は午前9時42分。待ち合わせまであと、0分。

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