愛
お昼ごはんも食べて、おなかが膨れれば自然と眠気は襲ってくる。
今朝は夢見が悪くて早くに起きてしまったから、いつもよりほんのわずかに眠気が強かった。
抗えない眠気にこっくりこっくりと船をこいでいるのが鋭児郎にバレたのか、鋭児郎にじっと見られていた。
「ん……、なに?」
「眠そうな名前も可愛いなって思って。ちょっと寝るか?」
「一緒にお昼寝……しよ?」
頬を撫でられる手が心地よくてその手を掴んだままベッドへと寝転んだ。寝てしまうのは少し勿体無い気もしたが、抗えそうもない。
鋭児郎はなかなか隣に来てくれない。掴んだ鋭児郎の手に頬を擦り付けて、ぼんやりとした視線を鋭児郎に向けた。
観念したのか隣に寝転んだ鋭児郎に抱きついて、温もりと鼓動を感じる。鋭児郎の香りに包まれたまま、まどろんでいれば意識はストンと落ちていった。
「……っ、名前」
耳元で聞こえた声に、落とした意識がゆっくりと戻ってきた。かすかに覚えている夢では、鋭児郎が私を守ってくれると言っていた。全てを受け入れて、隣にいてくれると。なんて都合のいい夢なんだろう。
願望が見え隠れする夢を記憶の奥底に追いやって、布団のなかから見える時計に目をやれば、1時間半ほど眠っていたらしい。
「っ、……ん、鋭児郎、?」
私が起きたのが伝わったのか、強く抱きしめられた。鋭児郎も眠っていたのか、その頬に涙の後が見えた。
「どうしたの、鋭児郎。」
「悪い……。名前がいなくなっちまう夢を、見て。」
鋭児郎の言葉を聞いて、どきりとした。
どくんどくんと鼓動を繰り返す体に深呼吸をして酸素を取り込む。ぽんぽんと鋭児郎の背中をあやすように叩いた。
「大丈夫、どこにも行かないよ。」
これは嘘だ。けれど、これを真実にしてしまいたいと、心が叫んでいる。あぁ、これ以上鋭児郎と一緒にいてはいけない。
これ以上、愛が深くなってしまう前に鋭児郎から離れなければ。そう思えば思うほど、天邪鬼のように鋭児郎に抱きつく力が強まった。
「なぁ、名前……。」
ぐっ、と鋭児郎が体を起こして私を組み敷いた。頭の下にあった鋭児郎の右腕は、今私の左手と指を絡めている。鋭児郎も不安を拭い去りたいのだろう。
重なる唇を受け入れた。
何度も何度も角度を変えながら、徐々に湿っぽくなる音が鋭児郎の部屋に響く。触れるだけだった口付けも、酸素を求める私の行動を制するように深くなっていく。
重力に従う、混ざり合った唾液が喉を潤していく。
うっそりと口付けに浸っていれば、服がたくし上げられた。
鋭児郎の少しだけ冷たい手のひらが、私の腹部を撫でる。温度差で体が小さく震えるのを感じる。
このまま流されてはいけない。受け入れることは容易いが、受け入れてしまったらもう二度と割り切れない気がする。
膨らみへ向かって進んでいく腕を静止の意味を込めて空いていた右手で掴んだ。指を絡めて、素肌から手を離させる。
腕に引かれてたくし上げられた服が、不自然な皺を寄せている。
鋭児郎の目は、ギラギラとしていて手を止めてしまったからか、再び唇が重なった。それと同時に、太ももへと硬い熱が擦り付けられる。
「や、鋭児郎……っ、待って、んぅ、」
「わり、待てねぇ……は、っ」
そんなとこも硬化出来てしまうのかと錯覚するほど、硬い熱が更に硬度を増して大きくなっているのを感じる。
静止の言葉を飲み込ませるような口付けに流されそうになってしまう。最後になるかもしれないこの行為を、受け入れてしまいたくなる。
けれど、受け入れてしまえば互いに破滅しか待っていないと言い聞かせて、鋭児郎の胸を叩いた。
ようやく離れた唇は、酸素を求めて薄っすらと開いたまま肩で呼吸を繰り返す。
「鋭児郎、ごめん……今日、その……アレで、出来ないの。」
今日の服装をスカートにしなくてよかった。スカートだったならばもう捲られでもして、これが嘘だとわかってしまうだろう。
「っ、あー……。ごめん、がっついた。」
欲の炎を宿した瞳が揺れた気がした。鋭児郎は一度きつく私を抱きしめたあと、ベッドから起き上がった。
「私も、先に言っとけばよかった……。ごめんね?」
「ちょっとトイレ、行ってくるわ。」
冷めやらぬ熱を持て余した鋭児郎は、先ほどまでの熱情のこもった口付けとは違う、子供だましのような口付けをしてベットを後にする。その背中を見つめながら私は鋭児郎の熱が残る布団を強く、抱きしめた。
- 116 -
←→
(
戻る)